2018年11月16日〜11月17日(現地時間)の2日間、アメリカ・ラスベガスで開催される『ファイナルファンタジーXIV』(以下、『FFXIV』)の大規模ファンイベント“ファンフェスティバル 2018 in Las Vegas”。ステージでは、開発者を招いて制作秘話を聞く“開発パネル”が実施された。登壇したのは、プロデューサー兼ディレクターの吉田直樹氏と、リードバトルシステムデザイナーの横澤剛志氏。本稿では、この開発パネルの模様をお届けする。
バトルシステムデザイナーとは?
開発パネルは、まずは横澤氏の自己紹介からスタート。バトルシステムデザイナーの仕事は、通信ラグを考慮した移動やアクションの仕組みを考えたり、チートなどに対する適切な処理方法を考えるなど、プレイヤーが意識する必要がないものの、ゲームにとって重要な部分を考えること。ほかにも、バトルの計算式を考えたり、ジョブのデザインをするといった、バトルの根幹の部分の開発を行うこともバトルデザイナーの仕事だと横澤氏は語った。ただし、バトルシステム系の仕事は、普段からたくさんあるわけではないので、手が空いているときはバトルコンテンツを担当したり、召喚士のエギのミラプリなど、違った部分の仕様を考えたりする仕事も受け持つのだとか。
『FFXIV』のなかで、まったく新しいタイプのコンテンツを実装するときは、大抵の場合、横澤氏がシステムのデザインを担当するという。ちなみに、多くのプレイヤーを苦しめたゾディアックウェポンのアートマ集めに関しては、「吉田から80時間以上かかるものを作れというオーダーがあったから、僕はそのとおりに作っただけ」と横澤氏は釈明。これに対して吉田氏は「アートマがドロップしないのは、横澤のせいではなく、おそらく僕のせいですね……(苦笑)」と返した。手掛けたコンテンツのなかでもっとも印象に残っているのは? という問いに対し、横澤氏は「ラムウ討滅戦」と回答。「評判はともかく、自分の中ではすごく上手に作れたなと。よくも悪くも印象には残っている」とコメントした。
絶アルテマウェポン破壊作戦の開発秘話が語られる!
数多くのコンテンツを担当してきた横澤氏だが、今回のイベントでは、超高難度レイド“絶”シリーズの第2弾として実装された“絶アルテマウェポン破壊作戦”の振り返りが行われた。
覚醒ギミックの説明だけを聞くと“単純なひっかけ”と感じる人も少なくないだろう。しかし、実際はそれだけではなく、考慮しなければならないことがあったから、このような仕組みになったのだと横澤氏は語った。その理由のひとつとして挙げられたのが、リソースの問題だ。基本的に、絶シリーズのコンテンツは既存のリソースを使って開発を行うとのこと。ギミックを追加して新たなリソースが必要になると、そのぶんコストが増えてしまうというわけだ。その問題を解決するために、覚醒という概念を取り入れたのだという。
もちろん、絶シリーズのコンテンツを作るためのコストがまったくないというわけではない。既存のリソースを最大限に活用し、ロジカルに作るということができなければ、このスピードで開発ができないと吉田氏はコメント。作り手にとっては非常に難度の高いもので、数多くコンテンツデザイナーがいる開発チームのなかでも、絶シリーズの開発を行えるのは、横澤氏を含めて3人しかいないのだという。
しかし、そんな開発コストに関する問題は、覚醒ギミックを作る要因のひとつでしかないと横澤氏は熱弁。真の狙いは……。
もちろん、ただ騙すのが目的だったわけではない。ここには、コンセプトのひとつである“ストリーミングの盛り上げ”が大きく関わってくる。絶シリーズの第1弾の“絶バハムート討滅戦”が実装されたときに、攻略配信をみんなで見て盛り上がるという文化が開拓されたのを見て、「これなら新しい体験が提供できるのではないかと考えたのがきっかけだった」と横澤氏。
この狙いは、見事に成功した。絶アルテマウェポン破壊作戦が実装された直後は、「予想よりも簡単」、「1日でクリアーチームが出るんじゃないか」と話題になったが、しばらく時間が経った後に覚醒ギミックの存在が発覚し、大きな話題を呼んだのだ。
ちなみに、開発チームのメンバーも攻略配信を見ていたらしいのだが、「配信を見ながらずっとニヤニヤしていたよね?」という吉田氏に対し、横澤氏は「みんな想像どおりの間違えかたをしてくれるから……(笑)」と回答し、会場を沸かせた。
そんな絶アルテマウェポン破壊作戦には、5つのフェーズが存在。ここからは、それぞれのフェーズの開発秘話が語られた。
ラハブレアフェーズを突破すると、それまでに登場した3体の蛮神がアルテマウェポンに吸収されるというシーンが描かれる。このシーンに関しては、「覚醒してパワーアップした蛮神を倒したことで得た力を使って、ギリギリの状態で何度でも限界を越える。しかし、倒した強敵たちが、また新しく出てきた敵にやられてしまううえに、吸収されてパワーアップされてしまうという絶望感。このドラマ性を描きたかった」と横澤氏は語った。
覚醒した3体の蛮神、そしてラハブレアのギミックを越えれば、いよいよアルテマウェポンとの戦いが始まる。アルテマウェポン戦は、大きく3つのフェーズが存在し、まったく別のコンセプトのもとに作られている。
最後のエンレイジフェーズは、プレイヤーの想像力に託そうという意図もあったという。「DPSが低い人から拘束されるのは優しいと思った人は、ちょっと想像力が足りていない。もっと熱い気持ちで遊んでほしい。逆に、身代わりになって後を託す展開だと見えた人は、その心をこれからも大事にしていただきたい」と熱く語る横澤氏だったが、「本当におかしな開発者ばっかりなんだよなぁ……」と吉田氏が苦笑しつつボヤいた。
このような思いもあって作られたエンレイジフェーズだったが、ひとつだけ想定外のことが起こったという。それは、ワールドファーストチーム(世界でいちばん最初にクリアーしたチーム)のトドメが、光の戦士の手によるものではなく、カーバンクルだったこと。これはさすがに想定外だったとか。
さらに、エンレイジフェーズを一度体験することによって、アルテマウェポンの目的が光の戦士を消滅させることだったのが判明する仕組みとなっている。絶アルテマウェポンを巡る話を、横澤氏というフィルターを通した結果、このような演出になったのだという。
ここで吉田氏から「最初にあれだけリソースやコストの話をしておいて、エンレイジフェーズではまったく既存リソースを使いまわしていないよね」と突っ込まれるが、「エンレイジフェーズにコストを割くために、使いまわした」と返す横澤氏。これには会場からも歓声があがった。
そして気になるつぎの絶シリーズ。「つぎの絶はどうするの?」という吉田氏の問いに対して、横澤氏は「絶バハムート討滅戦を担当した須藤も言っていたけど、1回、絶シリーズのコンテンツを担当すると、しばらくはいいかなという気持ちになる。充電期間が必要」と回答。さらに「もしつぎに絶シリーズのコンテンツを担当するとしたら、なにを題材にする?」という質問には、「作って楽しそうだなと思うのは三闘神」と答えた。
ここでステージイベント終了の時間。最後に「今後も喜びと驚き、そして絶望をみなさんに届けられるようにがんばりますので、『FFXIV』をよろしくお願いします」と横澤氏が締めくくった。今後も横澤氏の活躍、そして同氏の作るコンテンツの“絶望”に期待しよう!