デベロッパーの自由な開発には、ファンドは最適

 “九龍の夜”と命名されたKOWLOON NIGHTSは、ゲーム業界において、開発などに携わってきたメンバーにより結成されたゲーム系ファンド。ゲームクリエイターやゲーム開発会社向けに、資金面を中心に、さまざまなサポートを行うのが目的となる。おもしろいプロジェクトを選抜し、成功に導くために支援する……それがKOWLOON NIGHTSなのだ。ゲーム開発経験者が多いことから、資金面以外のアドバイスができるのも特徴と言える。さらに、彼らが支援していく“おもしろい”プロジェクトには、何と上田文人氏の最新作も含まれていることから、ゲームファンの注目も集めそうだ。今回は、ファンディングパートナーのジェイ・チー氏、ファンドアドバイザーのライアン・ペイトン氏に、一般的にはベールに包まれた存在であるKOWLOON NIGHTSについて、話を聞いた。

上田文人氏の新作も! デベロッパーの強力な援軍、ゲーム系ファンド“KOWLOON NIGHTS”とは?_12
上田文人氏の新作も! デベロッパーの強力な援軍、ゲーム系ファンド“KOWLOON NIGHTS”とは?_01
KOWLOON NIGHTS ファンディングパートナー:ジェイ・チー氏(写真左)、ファンドアドバイザー;ライアン・ペイトン氏(写真右)

Jay Chi(ジェイ・チー)

KOWLOON NIGHTS ファンディング・パートナー。
アジア、北米、ヨーロッパで16年間、インタラクティブ・エンターテインメントに携わる。生涯に渡りゲーマーであり、戦略、投資、成長の初期段階を支援することに取り組んでいる。

Ryan Payton(ライアン・ペイトン)

KOWLOON NIGHTS ファンド・アドバイザー。
KONAMIで『メタルギア ソリッド 4』のプロデューサー、マイクロソフトでは『Halo 4』のクリエイティブディレクターを務めた。2011年にシアトルでスタジオ "Camouflaj”を設立し、ディレクターを兼任。

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――ファンド系の会社さんにインタビューを行うのはファミ通でも珍しいことなのですが、KOWLOON NIGHTSがどういったファンドなのか、どういった立ち位置なのかを教えてください。
ジェイまず、ファンドに何ができるのかということ自体を、ゲーム業界の人もあまりご存じないですよね。KOWLOON NIGHTSのメンバーはもともと長くゲーム業界に関わっていて、私はコンサルティング会社に勤めていたこともあるので、投資の世界もいろいろと見てきてきました。私たちがデベロッパーに対してできることはたくさんあるのですが、いちばんわかりやすいのはファンディング、資金提供です。業界外から資金提供を行うというのは、ゲーム業界の方が思っているよりも当たり前のことなんですよ。

――開発資金を確保する、という点ではパブリッシャーと似ていますが、パブリッシャーとはどう違うのでしょうか?
ジェイここ10年くらいで、パブリッシャーの役割も変わってきています。最近はインディーパブリッシャーも大きくなってきましたが、まだ昔の大手パブリッシャーのように強いマーケティング力を持っているわけではないのです。ただ、彼らはいろいろなチームの中からよいと思うものを選んで資金を提供し、自由にゲームを作ってもらっています。そういうシステムを我々でもやりたいな、と思ったんですよ。

――制作現場にあまり大きく介入せず、資金提供をメインに行うということですね。
ジェイそうです。でもインディーパブリッシャーが提供できる金額はあまり大きくありません。そして、パブリッシャー、株式会社になった場合、会社の経営が優先され、その苦労がある分、デベロッパーを思い通りに助けることができずにいたケースも中にはあると思います。

――ファンドであれば、ディベロッパーの手助けにより集中できる、と。
ジェイそうですね。「どんな仕組みならデベロッパーに規制や制約をかけずに、自由にゲームを作ってもらうことができるか」と考えたときに、ファンドがちょうどいいと思ったのです。ファンドの仕組みは簡単で、まず「こういった規模の投資ができますよ」という話を投資家の方に持ちかけて、先に投資金をいただくことになります。

――ライアンさんは、KOWLOON NIGHTSでどのようなことをされているのでしょうか?
ライアン僕はシアトル出身のデベロッパーということもあり、おもに投資がすでに始まっているチームへの開発アドバイスですね。あとは、アメリカのシアトルなど、西海岸にいるデベロッパーをKOWLOON NIGHTSに紹介したり、すでに動いているプロジェクトの管理などです。日本国内の案件にも関わっています。KOWLOON NIGHTSのスタッフは、世界中からいろいろな人が集まっていて、たとえばカナダのモントリオールにいるデベロッパーの紹介や管理は別の人間がやっています。
ジェイ特定のジャンルにこだわらず、広くゲームを見ているので、それぞれのジャンルを見るメンバーがいるんですよ。個人個人に得意なジャンルがあるので、「このジャンルだったらこのゲームがおもしろいよ」といった意見をもらうようにしているのです。
ライアンクリエイターに自由にゲームを作ってほしい、いいものが日本国内だけでなく、中国や欧米、世界中でそのゲームが普及するようにしようという思いがあったので、ジェイさんからKOWLOON NIGHTSの話を聞いたときには、「ぜひ関わりたい」と思いました。

――ライアンさんはデベロッパーの制作現場をしっかりとチェックされるのでしょうか?
ライアンプロジェクトによって変わりますが、彼らが作っているものを見ることはします。たとえばマイルストーン(節目)があるときには、僕が出向いてどんな作業になっているか、どういう部分を苦労しているのかを見て、苦労している部分にアドバイスをしたりですね。

――プロジェクトマネージャー的な関わりかたなんですね。
ライアン近いですね。ただ、僕も自分で経営している会社があるので、ふだんはそちらに集中しています。夜や週末、時間があるところでKOWLOON NIGHTSに携わっている感じですね。余暇にスポーツを見に行ったり、本を読んだり、人によって趣味はさまざまですが、僕の場合はそれがゲーム業界に関わることなんですよ(笑)。

KOWLOON NIGHTS

――KOWLOON NIGHTSは、何人のメンバーで構成されているのでしょうか?
ジェイメインのチームと手伝ってくれているチームがあって、メインのほうは私を含めて6人。私はみんなの半分くらいしか動けないから、5.5人ぐらいですかね(笑)。ほかにも今回隣にいるライアンさんや、公式サイトに載せているほかのメンバーが各プロジェクトに入っています。

――プロジェクトによって、それぞれ別の方が関わっているんですね。
ジェイKOWLOON NIGHTSは、特定のジャンルにこだわらず、広くゲームを見ているので、それぞれのジャンルを見るメンバーがいるんですよ。個人個人に得意なジャンルがあるので、このジャンルだったらこのゲームがおもしろいよ、といった意見をもらうようにしているんです。

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Alexis Garavaryan(アレクシー・ガラヴァライアン)/マイクロソフト在籍時、ID@Xboxで『Cuphead』などと契約するに至る。
Sam Lee(サム・リー)/おもに中国の独立系スタジオの支援などを担当。
Lindsey Rostal (リンジー・ロスタル)/アメリカのデベロッパー“The Odd Gentlemen”で、『King's Quest』などのプロデュースを務めた。

――確かに、ひとりが全ジャンルを見るのは現実的ではないですね。
ジェイ加えて、デベロッパーに投資をするので、やはりKOWLOON NIGHTS内にも開発出身のメンバーがいて当然です。さまざまな経験を積んだデベロッパーが参加し、各プロジェクトの予算感やリスクを精査します。幸いKOWLOON NIGHTSには、いろいろな経験を積んだデベロッパーが参加してくれています。

――そのデベロッパーはどういったことをされるのでしょうか?
ジェイ投資するプロジェクトを選ぶ際に意見を出してくれるのはもちろん、投資が始まったプロジェクトに出向いて、開発側の自由は保ちつつ、効率性向上のアドバイスなどを行うこともあります。

――なるほど。ほかのところから資金を引っぱってきたうえで、デベロッパーに投資しつつ開発のアドバイスも行う、と。

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――KOWLOON NIGHTSを立ち上げた経緯を教えてもらえますか?
ジェイ僕は昔からゲーム業界に入りたくて、12歳のころにはゲーム業界に入ろうと決心しました。それからアメリカで大学を卒業したのですが、そのころはちょうどNASDAQが暴落していて、西海岸だと仕事が見つからない状況でした。また、当時ゲーム業界に入りたいのなら、やはり目指すのは日本です。それで、2002年に日本に引っ越してきました。

――いきなりゲーム業界に?
ジェイ当然、そんなに簡単にはいきませんでした。外国人がいきなり経験なし……だったので、まずは一般の会社で働いて、夜にゲーム業界の方が集まる場に出かけ、そこでネットワークを作りました。いろいろな会社からオファーをいただくようになっていたのですが、2005年ごろ、そろそろゲーム業界に入ろうかな、というタイミングで、あるコンサルティング会社から電話をいただきました。

――コンサルティング会社ということは、ゲーム業界とはまったく違いますよね?
ジェイ当時はコンサルティングが何なのかもわかっていなかったのですが、ホームページを見たり、知り合いに話を聞くと、どうやらいい会社らしいとなって、面接に行ったんですよ(笑)。そこで「ゲームに関わりたい」という話をしたところ、その会社にはまだゲーム部門がないけど、入ってから自分で作ればいいじゃないか、と言われたのです。

――なかなかすごい誘いかたですね。
ジェイ私としても「おもしろいな」と思ったので、入社しました。最初は、コンサルティングがどんな仕事なのかを勉強し、その後ゲーム業界でのコンサルティングを実際に行いました。日本に限らず、ゲーム業界は新しいものに対して懐疑的なところがありますが、ひとつ大きな案件を成功させると、みんな興味を持ってくれ、どんどんプロジェクトが増えていきました。おかげで、2011年にはゲーム業界のコンサルティングはほぼその会社が行うようになったんです。

――それはすごいですね。
ジェイやはり小さいプロジェクトの場合、アイデア勝負になる部分があるじゃないですか。逆に大手になればなるほど、新しいものを作るのは難しい。小さいチームが何か斬新なものを生み出して、大手はその後からそこに入って来る。小さいチームを支援することでいいものができて、ゲーム業界が変わっていく。そうなっていったらいいですよね。大手のサポートもしつつ、小さいチームを助けていくというのは、2012年ぐらいからやっていることなんですよ。

――そこから発展して、KOWLOON NIGHTSへとつながっていくんですね。
ジェイそうです。この6年間やってきていちばん感じたのは、この業界では小さいチームを立ち上げることが、まずたいへんです。いわゆる投資家と言われる層の人は、ゲームに詳しくない人が多いので投資してくれる人が少ないのですよ。そうすると、大手ゲーム企業を頼るしかありません。ただ、ほかの企業のもとで作る場合、いろんな制約が入ってきますよね。

――開発資金を出してもらっている以上、パブリッシャーに逆らうのは難しいですからね。
ジェイそうです。これはイノベーション的にはあまりよくないんですよ。生まれたばかりの子どもが、十分育つ前に結婚させられてしまうようなものなので(笑)。ただ、ここ3、4年ぐらいでプラットフォームもオープン化してきていて、マーケティングも開けたものになってきています。小さいチームが成功するには、いちばんいい時期なんですね。