2018年6月9日(現地時間)にアメリカ・ロサンゼルスで開催された『KINGDOM HEARTS Orchestra -World Tour-』や、2018年6月12日~14日(現地時間)実施のE3 2018に関連するカンファレンスにて、発売日の発表や新ワールドの公開などを行った『キングダム ハーツIII』(以下、『KHIII』)。それらの新情報や、2018年5月のメディア向け試遊会で判明した事実について、ディレクターの野村哲也氏を直撃した。

※本稿は週刊ファミ通2018年7月5日号に掲載した内容に加筆・編集を行ったものです。

発売日変更の経緯

――E3 2018ではいろいろな発表がありましたが、まずは発売日が当初の2018年から少し先の2019年1月25日になった理由についてお聞かせください。

野村 『KHIII』はタイトル規模が大きいため、発売日については以前より関係各所との調整を続けていました。その中で、年末年始は流通の都合や生産の面で制限がかかりやすく、ワールドワイドで展開するにあたって十分な体制を整えづらいということをうかがい、また、関連会社様や海外支社から、日本と発売タイミングをほぼ同時にしたいことや、1月が望ましいという意向もいただいていました。一方で開発の進捗的にも、決して余裕がある状況でもなかった。そうしたいくつもの状況を踏まえて、最終的には会社判断となりました。

――複合的な理由だったということですね。つぎに、今回公開された情報やPVについてお聞きします。新ワールドとして、『アナと雪の女王』が発表されました。

野村 ここでは映画と同じ時系列で、作中で観られたシーンがそのまま目の前で展開します。有名な『レット・イット・ゴー』も流れますよ。バトルの面ではアナやエルサたちはパーティーに加わらないのですが、エルサが魔法で作り出したマシュマロウが力を貸してくれます。雪山はもちろん、ラクシーヌが用意する氷の迷宮を探索したりといった場面もあります。

――盾に乗って雪山をソリのように滑るシーンもありましたね。

野村 雪山を滑り降りながらのバトルが展開します。『FFVII』のスノーボードのように、ストーリー上で体験した後は、スコアアタックに挑むこともできます。

――『パイレーツ・オブ・カリビアン』のワールドの発表も衝撃でした。ここは原作のどの時系列になるのでしょうか。

野村 3作目の『パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド』がベースになっています。『KHIII』ではその3作目を舞台として、2作目の内容については、簡単なあらすじ的に触れられます。2作目の『デッドマンズ・チェスト』がタイトルの通り“箱”が鍵を握る物語で、今回マレフィセントや真XIII機関が探す“黒い箱”とのリンクがありますね。

――人物は実写さながらのクオリティーでしたが、フォトリアルな世界と、『KH』の世界の表現のバランスは難しかったのでは?

野村 そこは本当に難しいところで。フォトリアルな方向性に合わせて、このワールドではソラやドナルド、グーフィー、ルクソードまで、専用のディテールを持ったモデルを用意しているんです。ジャックたちについてはまだ手直ししている状況で、これで完成ではないのですが。

野村哲也氏を直撃!『キングダム ハーツIII』E3 2018発表内容を中心に訊くインタビュー完全版_02

――このワールドのために、ルクソードまでわざわざモデルを変えているんですか?

野村 一度、ほかのワールドで使用するルクソードのモデルを置いてみたりもしたのですが、すごく浮いてしまって(笑)。全編フォトリアルであるとか、作品通してのビジュアルの方向性が同じであればまだ調整しやすいのですが、『KHIII』ではワールドごとにかなりテイストが違うので、そこは手間がかかるところですね。それぞれのワールドのビジュアルは、極力オリジナルに寄せるということを意識しています。

――確かにどのワールドも原作のイメージ通りで、まったく違和感がありません。早くほかの新ワールドの様子も見てみたくなります。

野村 『ベイマックス』のワールドはまだ公開していませんね。楽しみにしていただければ。

――PVにあった『レミーのおいしいレストラン』らしきシーンは、ミニゲームなのだとか。

野村 そうです。レミーの指示で、材料を切ったり焼いたりして料理を作り、成功すればステータスがアップする料理が完成します。料理を失敗すると丸焦げになったり(笑)。プレイできるのはトワイライトタウンで、いろいろなワールドで食材を集めてくると、料理が作れます。

――『塔の上のラプンツェル』のワールドでも、ダンスを踊るシーンにゲーム性があるようでした。

野村 いわゆる“音ゲー”的なミニゲームです。レミーの料理もそうですが、ミニゲームはスタッフが「こういうものをやりたい」と企画を上げてきてくれるものがほとんどです。もしくは、安江(泰氏。Co.ディレクター)がテンションに任せて作っているか(笑)。そうした現場で出てくるものは、基本的に止めずに入れています。

――20種類もあるという“クラシックキングダム”は、野村さんの企画でしたよね。

野村 そうですね。可能ならもっと増やしたかったのですが(笑)。ハイスペックのタイトルを多く手掛けている反動もありますが、自分はもともとこういうテイストが好きで。本当は、LSIの端末ごと作りたいんです。でもいまどきは難しいので、ゲームの中に実装しました。クラシックキングダムの各ゲームはいろいろなワールドに隠されていて、見つけるとソラが持っているモバイルポータルという端末でいつでも遊べるようになります。

野村哲也氏を直撃!『キングダム ハーツIII』E3 2018発表内容を中心に訊くインタビュー完全版_10

戦略の幅のあるバトルを目指して

――5月のメディアプレビューで試遊させていただきましたが、フリーランで壁を駆け上がったり走り回るだけでワクワクしましたし、バトルでくり出せる技がとにかく多くて、遊びが詰まっているのが感じられました。

野村 走ることひとつとっても、“触っていて楽しい”作りになっていると思います。フリーランが可能な壁が光るのは、親切さを優先していますね。バトルでは、ソラの行動に応じて画面左に“シチュエーションコマンド”が表示されていきます。常設のコマンドのみではなく、時間制限のあるタスクが積み上がっていって、どれをどのタイミングで使うか自分で戦略を組みたてられる。今回、とくに実現したかったシステムです。

――5個くらいコマンドが出ることもありますよね。時間制限があるので、使いこなせるか不安もあります。

野村 もちろん、ボタン連打でどんどん使っていってもいいんです。つぎつぎと違う技が出て、それだけでも強力ですし爽快かと。そのうち慣れてきたら、「この技から使おう」と選んでいけばいいので。これを使わなければダメ、というものではないため、アクションが苦手な方でも大丈夫です。

――難しく考えなくてもいいわけですね。シチュエーションコマンドとして出る技の中でも、遊園地の乗り物のような“アトラクションフロー”はとくに華やかで、ミニゲーム的な要素を持つものもあり、出すだけで楽しい技だと感じました。

野村 今回のPVにあった、『モンスターズ・インク』のワールドのウォータースライダーもそうですね。アトラクションフローは場所ごとに出せるものが違っていたり、ファイガだったらファイア系の攻撃をしていることが条件だったりと、シチュエーションコマンドの出現にはさまざまな発動条件があります。

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――3本のキーブレードを瞬時に持ち替えられ、それぞれが変形するというギミックもありますが、このシステムも戦略に幅を持たせるために?

野村 はい。キーブレード関連の新システムも、狙って使いこなさずともいろいろな技が出て楽しいですし、上手な人は効率よく戦略を組み立てられるようになっています。さまざまな選択肢を用意して、取れる戦略の幅が広いというバトルを目指す中で、変形はその手段のひとつとして重要な要素です。

――変形のバリエーションが、ハンマーやヨーヨー、果ては塔とかなりインパクトがあります。

野村 そう感じてもらえたならよかったです。その形態ごとに、まったく違うアクションが楽しめるようになっています。ちなみに、変形しないキーブレードもいくつかあって、そういうものは特殊な性能を持たせています。たとえばキングダムチェーンなら、過去のソラの技が使えます。

――今回のPVにあったスケートで滑っているようなシーンも、変形のひとつですか?

野村 『アナと雪の女王』のワールドで手に入るキーブレードの変形ですね。氷の上に限らず、どこでも滑って移動でき、高速で接近して近接攻撃を仕掛けられます。

――今回は魔法を移動手段として使えたり、シュートロックで敵に急接近できたりもしますよね。試遊では移動すら遊びになっていることでのテンポのよさを感じました。

野村 そこも意識しているところです。『パイレーツ・オブ・カリビアン』のワールドでは、特定の敵に向かってシュートロックで飛ぶと、その敵に乗って移動ができるようになります。

――PVにあったシーンですね。

野村 今回お出しした内容はどれも注目していただきたいのですが、なかでもこの『パイレーツ・オブ・カリビアン』のワールドは見どころが多いと思います。海に潜ってのバトルから、船を操って海戦をくり広げるシーン、ハートレスに乗っての空中戦など、このワールドは陸海空、すべてがシームレスにつながってバトルの舞台となっています。船を操縦して航海し、発見した島を探索するというような遊びもあります。なんでもできるワールドです。

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――ちなみに、成長著しいソラですが、育成はどのようなシステムに?

野村 従来のレベルアップや合成のシステムを正統進化したものになっています。携帯機のシリーズ作などは、育成にも遊びを入れていましたが、『KHIII』はナンバリングとして本編自体に遊びが詰まっており、ボリュームも十分にあるので、そこはシンプルにしてありますね。

――なるほど。話をバトルに戻しますが、試遊では『シュガー・ラッシュ』のラルフが登場する“リンク”も体験できるようになっていましたね。

野村 リンクは何度か仕様が変わっていて、もともとはいまとは違うことを“しょうかん”として実装しようとしていたんです。そこから、ディズニーのキャラクターの力を借りる現在の形に落ち着いたときに名称も“リンク”としました。ラルフとのリンクはパズル的な要素があったと思うのですが、『KHIII』のリンクはディズニーのキャラクターが登場して技を出して帰る、というものではなく、プレイヤーが操作するなど干渉できるのが特徴です。今回のPVに登場したシンバも、ソラが乗って、自分で選んだコマンドに応じて技を出すことができます。

――リンクで登場することが明かされているワンダニャンも、同じようにプレイヤーが干渉できる?

野村 はい。乗ってボヨンボヨンと跳ねる、おなじみのあれです(笑)。じつは“しょうかん”としてやろうとしていたことというのが、『KH3D』のドリームイーターを全種類、それぞれ呼べるというシステムで、リンクのワンダニャンはその名残なんです。

――ドリームイーターを? 全種類!?

野村 そうです。ものすごい数を用意する予定だったのですが、全体の物量が見えてきたときにスタッフから「ムリです」と言われて。そのため、リンクではワンダニャンたちドリームイーターをいっぱい出してみました(笑)。

野村哲也氏を直撃!『キングダム ハーツIII』E3 2018発表内容を中心に訊くインタビュー完全版_12