eスポーツ協会事務局長や『鉄拳』世界チャンピオンらが登壇し、eスポーツの現状と未来を語り尽くす!
2017年1月13日、エンターテインメント業界の各所で活躍してきた黒川文雄氏が主催するトークイベント“エンタテインメントの未来を考える会”(黒川塾)の第44回が開催された。今回のテーマは、“eスポーツとプロゲーマーの明日はどっちだ!?”。日本でのeスポーツのおかれる現状と未来の展望、そしてそこに関わるプロゲーマーの実態を明らかにしていくというもの。
【1月20日(金)15:00ごろ】
記事初出時、一部表記に誤りがありましたため、訂正いたしました。読者ならびに関係者の皆様にご迷惑をおかけいたしましたこと、お詫び申し上げます。
ここで本日のゲスト陣が登場。まずは、ヤマサからスポンサードを受けているプロゲーマーの中山大地氏。リングネーム“ノビ”として、世界大会で数々の輝かしい実績をあげてきたほか、『鉄拳』の講習会や大会企画などを行い、同作の普及活動に務めている。続いて登場したのは、eスポーツキャスターという肩書きを持ちながら、先日起ち上げたばかりのeスポーツプロチーム“サイクロプス大阪”の監督に就任した佐野真太郎氏。そして、元東大教授という肩書きから、eスポーツの世界に足を踏み入れ、現在は東京アニメ・声優専門学校でeスポーツ研究といった授業を担当している馬場章氏。最後は、27年間務めていた電通を辞め、新たに起ち上げた日本eスポーツ協会の事務局長としてeスポーツの発展に尽力を尽くしている筧誠一郎氏の4名が登場。モデレーターはお馴染みの黒川文雄氏が務め、これまでのeスポーツの成り立ちから、国内でのeスポーツの在り方、今後の発展のために何が必要なのかなど、熱いトークセッションがくり広げられた。
まずは日本eスポーツ協会 事務局長の筧氏より、eスポーツについて、その概要が簡単に説明されていった。スポーツとは、日本では運動・体育といった、肉体を使った“フィジカルスポーツ”を指す意味合いで捉えられることが多いが、元々の言葉の意味は“競技”を楽しむといったもので、チェスやビリヤードのように思考力や計算力といったものを使う“マインドスポーツ”も含まれている。eスポーツとは“エレクトロニックスポーツ”の略で、コンピューターゲームで行われる対戦型ゲーム競技のことを指している。筧氏によると、棒高跳びや短距離走、砲丸投げなど、フィールドで行われる競技を総じて陸上競技というように、デジタル上で行われる競技を総じてeスポーツと呼ぶとのこと。FPS(ファースト・パーソン・シューティング)部門やMOBA(マルチ・オンライン・バトル・アリーナ)部門、RTS(リアル・タイム・ストラテジー)部門などそのジャンルも多岐にわたっており、それぞれ世界各地で数百〜数千万ユーザーを持つタイトルを使っての大会が行われている。各部門のプレイヤー人口をあわせると、eスポーツ競技人口は1億人以上にもなるとのことで、これは国際野球連盟発表による世界の野球競技人口3500万人、国際ラグビー評議会発表の世界ラグビー競技人口260万人を大きく超えるものとなっており、このプレイヤー数の多さから見ても、このeスポーツがいずれ4大スポーツの一角を占める可能性があるのではないかと、筧氏は述べていた。
eスポーツの概要に関する説明がひととおり終わったところで、黒川氏からいまのeスポーツで取り上げられているゲームについて、格闘ゲーム以外で日本のゲームが圧倒的に少ない点が指摘され、海外でも活躍している中山氏に国内の現状とこれからについての質問が行われた。中山氏は「僕は2011年に一度世界一になったんですが、その頃は日本で大々的に取り上げられるといったことはありませんでした。ですが、2015年は世界大会で二度勝っており、スポンサードも受けて収入も何倍に跳ね上がるなど、eスポーツの注目度や、自身の広告塔としての効果もあがってきていると思います。今後はどんなゲームでも、もっと注目度があがってくるのではないでしょうか」と、自身のこれまでの活躍を交えて、国内でのeスポーツの現状を説明。
続けて佐野氏に、プロeスポーツチーム監督として、世界と比べていまの日本のeスポーツに足りないものは何かという質問が投げかけられ、「日本に足りないものは、ヒーローです」と指摘。「とりあえず国内でこの人が出てきたら勝つだろうという方が、もっと出てきてもいいのではないか。そういった人を広告塔としてしっかり使う国内企業が出てくることが必要だと思います」と、国内のeスポーツの発展には、中山氏のようなスター選手がもっと登場して活躍する必要があると語っていた。
ここで馬場氏も「eスポーツのビジネスのひとつはチーム運営、もうひとつはイベントの運営があります。また、当然ゲームを使うのでゲームメーカーにも勝機はあるんですが、日本ではゲーム会社がこの勝機を活かせていないところがあります。これはいろいろな制約があってということもありますが、そこをなんとか突破したい」と、佐野氏らの意見に付け加える形で、自身の考えを披露。
この数年の国内でのeスポーツでの変化について、筧氏は「15年くらい前は、世界で遊ばれているゲームの6~7割が日本のゲームでした。ただ、いま世界の人たちと話していると、日本のゲームで遊んでいる人は1割もいないんじゃないかと思います。国内メーカーも、これまでは国内市場だけでやってこれましたが、eスポーツがこれだけ世界で大きくなっている中で、この一年くらいで急にeスポーツを採り入れないとまずいんじゃないかという雰囲気が広まりつつあります。とくに象徴的だったのが、つい先日KONAMIさんが“パワプロフェスティバル”や、“PES LEAGUE”という『ウイニングイレブン』のeスポーツ大会を開催されたことですね。やはり皆さん、いろいろと試行錯誤をしているのかなということを感じます」と語ってた。
ここで馬場氏は、現在のeスポーツの発展状況に対して、「昨年1年間の統計をいま取り始めているんですけど、世界的にみると、去年のeスポーツ大会の賞金総額というのは、320億円で、トーナメント数は約3万試合。プレイヤーの数も賞金額もどんどん増えています。日本も雰囲気的には盛り上がっていますが、なかなか制度がそれに追いついてこないところがあります。それをどう突破するかが、今後のブレイクスルーに関わってくるのではないでしょうか。個人的には、今年の後半から来年初頭にかけて、名実ともにeスポーツ元年にしたいと思っています」と、国内での発展のためには大きな壁を乗り越えなければならないことがあるものの、その障壁を取り払い、eスポーツのさらなる発展を目指したいという考えを示していた。
eスポーツの発展を阻んでいる要因のひとつに、法律の問題があると筧氏。まずは刑法185条(賭博罪)、景品表示法、そして風営法。この3つの法律が、国内でのeスポーツ大会の運営や賞金額の足かせになっている部分があるとのこと。以前、筧氏の仲間がクラブとクラブカルチャーを守るためにダンス文化推進議員連盟というものを政治家に働きかけ、3年かけて議員立法で風営法の枠を取り払った事例をあげ、eスポーツ協会としても同じように3年ほどかけて、この法律を取り払うことに尽力していきたいと話していた。これに対し、黒川氏も「馬場さんと筧さんが3年かけて、法的な問題を解決し、よりダイナミックな大会でができることを期待したい」と、今後の希望を述べ、また黒川塾への登場を熱望していた。
黒川氏は以前、セガ在籍時に『バーチャファイター』を盛り上げるため、“バーチャ道場”を作り、鉄人たちといっしょに市場を盛り上げてきた経緯に準え、いまのeスポーツの世界でもそういった演出が必要なのではないかという持論を展開。佐野氏も、自身が監督している『オーバーウォッチ』のチームメンバーにアフロのプレイヤーを作ってみたり、またゲーム内の役割に紐付けしたキャラクター作りなどをしたらおもしろくなるのではといった意見も飛び出していた。
今度は、現在さまざまな団体やチームが乱立しているeスポーツ界の現状に対するテーマが投げられることに。筧氏は、いまはeスポーツに対してみんな手弁当でいろいろなことにチャレンジしている過渡期ではあるが、みんなこの競技を盛り上げていこうと同じ思いを持っていると語り、「いま国内のeスポーツを外から見ると、いろいろな団体ができたり、いろいろな大会が行われているように見えますが、それはスポーツ産業として成立していくための過程です。いろいろな流れが出てきて、それがひとつの大きな流れになっていくのは、これまでの産業が盛り上がっていくものと同じですからね」と持論を展開。馬場氏も、各団体や大会で交わりがないことに対しては「プロレスのように、あいつが気に入らないから別の団体を作る」といったものではなく、たまたまデバイスやゲームタイトルの違いなどでいっしょになっていないだけで、皆目標はいっしょとのこと。ビジネス面でのアプローチと、スポーツとしてのアプローチち、取り組み方の違いはあれど、それぞれの立場でみんなeスポーツを盛り上げようとしていると語っていた。
実際にプロゲーマーとして活躍している中山氏と、プロチームを監督する佐野氏に対しても、ライバルとなる他のプレイヤーやチームとの繋がりはどうかといった質問がなされたが、「『鉄拳』というゲームでは、すべての人が仲良くやっています。北海道から沖縄まで、みんな名前を知っているといった感じで、年に一度行われる5on5の大会ではみんなでお祭り騒ぎするくらい、仲がいいですね」と中山氏が語ると、佐野氏も「チームメンバーの中には他のチームから移ってきた人間もいますが、そのチームと練習試合をしたり、海外の大会に出場した経験のあるメンバーが海外チームとのパイプ役になったりと、チーム同士のコミュニケーションは国境を越えて横に広がっていますね」と、プレイヤーやチーム間では想像以上に横の連携が取れていることが話された。
ここまで、白熱したトークセッションが行われてきたが、終了時間も迫ってきたということで、各参加者にこれからのeスポーツへの思いなどが語られていった。
中山大地氏「僕はまだまだこれから先も生涯、願わくばゲームで生活していきたいです。これからもっともっとeスポーツがよくなるように、いろいろ自分でもやれることはやっていきたいと思っています」
佐野真太郎氏「プロeスポーツチーム監督として、11人のチームメンバーを食わしていくという責任を負う立場になりました。eスポーツがもっと普及することによって、これらの責任を果たせると思っています。サイクロプス大阪を見かけたら応援してください」
馬場章氏「昨年の10月に東京大学を辞めてから、いまは専門学校でeスポーツプレイヤーの育成をやっているんですが、セカンドキャリアの情報を彼らに与えていくのも、私たちの仕事ですね。また、eスポーツというのはマインドスポーツの要素と、フィジカルスポーツの要素を両方持っています。そういう科学的な知見に基づいて効率よく優秀なeスポーツ選手を育てていきたいと思っています」
筧誠一郎氏「サイクロプス大阪さんが所属してくださっている日本eスポーツリーグという協会を共催でやっています。このeスポーツの決勝戦、サイクロプス大阪対東京ベルディ、東と西の勇による決勝大会が1月22日に西葛西にある東京アニメ専門学校で行われます。この模様はTWICHで放送しますので、来るのが難しい方はぜひ配信でご覧になっていただければと思います。また、2月25・26日には豊洲PITで、誰でも参加できる第2回日本eスポーツ選手権大会を行います。3月には学生選手権も行いますので、そちらもぜひ見ていただければと思います」
最後に、2017年最初の黒川塾を終えた黒川氏より、「今日は皆さん、ありがとうございました。また年内にeスポーツ関連のお話ができればと思います。2月には黒川塾45回をやらせていただきますが、レベルファイルの日野社長と私の対談ということで、いまからワクワクしています。黒川塾も足かけ4年やってこられたのも、登壇していただいたゲストたちと、会場に来てくださる皆さんのおかげです。2017年も皆さまにここでお会いできることを楽しみにしています」と締めのあいさつが行われ、第43回黒川塾は終了となった。
【2017年1月17日(火)19時30分記事修正】
記事初出時、表記の一部に誤りがありました。訂正してお詫び申し上げます。
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