本誌掲載インタビュー+プレイヤーからの質問にお答え

 怪物退治を生業とする“ウィッチャー”を操って、広大な地で冒険をくり広げるRPG『ウィッチャー3 ワイルドハント』。同作品に、本編とは異なる新たなコンテンツを追加する“エキスパンション・パック”の第2弾『血塗られた美酒』が5月31日に発売される。そこで、今回は、ポーランドの開発会社CD PROJEKT REDの開発者、アダム氏とラファール氏を直撃! 週刊ファミ通2016年5月26日号に掲載したインタビューの内容に加えて、週刊ファミ通の生番組『ファミ通チャンネル』の『ウィッチャー3 ワイルドハント』の放送で募集した、視聴者からのスルドイ質問への回答も掲載! 番組内で盛り上がった「最高級の剣だ!」の謎も、ついに判明!

『ウィッチャー3 ワイルドハント』追加拡張パック第2弾『血塗られた美酒』発売記念! 開発者インタビュー_04
右 アダム・バドウスキ氏(文中はアダム)
CD PROJEKT REDのスタジオ・ヘッド。『ウィッチャー3 ワイルドハント』開発の中心となる人物。

左 ラファール・ラキ氏(文中はラファール)
CD PROJEKT REDのビジネス・デベロップメント・マネージャー。“グウェント”の共同制作者でもある。

■CD PROJEKT REDに聞く! Vol.1
新拡張パック『血塗られた美酒』の魅力

――今回の拡張パックは、新しいエリアが追加されるとのことですが、広さや位置はどのくらいになるのですか?

アダム 新しく追加されるエリアは、本編のヴェレンとノヴィグラドを合わせたくらいのサイズで、地理的にはテメリアよりも南部になります。ニルフガード帝国の属州ですが、中立地帯になっており、周囲の戦争の影響を受けていない平和なエリアです。

――それはかなり広いですね! どういったイメージのエリアになるのでしょうか?

アダム 新エリアは“トゥサン”と言い、ワインを特産品とした、舞踏会やお祭りなどが頻繁に行われる夏の欧州のようなイメージの地域です。女性の公爵の下に騎士たちが仕えるという、他国とは異なる形の統治が行われています。

ラファール 周囲では激しい戦いが続いていますが、このエリアに住む人々に関しては、本編に出てきた地域の人々のような危機感や荒廃感は持っていません。

『ウィッチャー3 ワイルドハント』追加拡張パック第2弾『血塗られた美酒』発売記念! 開発者インタビュー_01

――本編とはずいぶん雰囲気が異なるようですね。

ラファール ですが、そこは『ウィッチャー』ですから、平和な状況だからこそ起こりうる、堕落や官僚の汚職など、いろいろとネガティブな事件が発生しながら話が展開していきます(笑)。

アダム 最初に殺人事件が起きますが、誰も対応できる者がいないため、ゲラルトがトゥサンに呼ばれるところから話が始まります。そこで探偵のように証拠を探していくと、これがただの殺人事件ではないことがわかっていきます。トゥサンには吸血鬼たちが棲んでいるのですが、どうやら一連の事件は、その吸血鬼と関係があるらしい、と。吸血鬼のダークな側面と、常夏の国の明るい側面のバランスを取りながら描くということが、全体のテーマになっています。

――吸血鬼っぽいのは本編でも出ましたよね。

アダム 『ウィッチャー』の世界には、ふつうの吸血鬼と上級吸血鬼がいます。ふつうの吸血鬼は、本編にもいろいろな怪物の姿で出てくるのですが、トゥサンにいる上級吸血鬼は、ほとんど不死で、ゲラルトでもかなりの事前準備をして挑まないと、まったく歯が立たない、次元が異なる存在です。そして、人に姿を変えると完全に見分けがつかなくなります。あらゆる面で、通常の怪物とは一線を画した、ヤバい奴らだということが言えます。

ラファール 上級吸血鬼は、人間よりもはるかに長寿で歴史が深い存在です。吸血鬼と言えば、血を飲む行為をイメージされると思いますが、上級吸血鬼たちにとって血を飲む行為は、人間世界で言う“お酒”のようなもので、必須ではなくあればうれしい、という程度なのです。このあたりも一般的な吸血鬼とは違いますね。

アダム 『ウィッチャー』の上級吸血鬼は、吸血鬼という存在を改めて定義づけるような、クラシックなデザインや考えかたになっています。我々が本編の発売直前に公開したローンチトレーラー“A Night to Remember”(こちら)でも姿を見ることができるので、確認してみてください。

ラファール トレーラーの中で出る女性の吸血鬼は誰で、どうなったのか? というところも描かれるので、ぜひ楽しみにしていてください。

『ウィッチャー3 ワイルドハント』追加拡張パック第2弾『血塗られた美酒』発売記念! 開発者インタビュー_02

――その上級吸血鬼が、倒すべき敵となるわけですか?

ラファール 上級吸血鬼は超越した力の持ち主で、“ゲラルトでもかなわない”かもしれない存在です。ですから、戦って倒す以外の解決策も考えなければいけないかもしれません。

アダム また、本編はゲラルトに関係する人々との話がメインでしたが、本作ではサイドクエストも含めて、怪物にまつわる話に焦点を当てているのも大きな違いです。ただ、怪物が主役とは言っても、物語の中にはトゥサンが抱える問題や、美しい女性公爵との恋愛事情なども含まれています。最初の拡張パックよりも壮大なイメージを与えられる物語だと思いますよ。

ラファール クエストや仕掛けは、最初の拡張パックとは比較にならないくらい多いです。本作が最後の拡張パックなので、これまでの開発で得た経験をすべて注ぎ込んで作っています。

アダム 多少、時間をかけすぎているとは思っていますけれどね(笑)。

――前回の拡張パックでは、過去作のキャラクターが登場しましたが、本作ではどうですか?

アダム 既存のキャラクターも出てきますが、メインは新キャラクターです。あまり多くは言えませんが、原作の小説にいる、カリスマ性が高いキャラクターが絡んできます。

――本作で新しく実装されるシステムは?

ラファール ゲラルトはブドウ園や邸宅を持っているのですが、それをアップグレードすると、ボーナスがもらえる仕組みを実装します。また、家の壁に絵を飾ったり、装備の色を変更するなどの細かいカスタマイズも可能になりました。

――カードゲーム“グウェント”についてのバージョンアップはないのですか?

ラファール 新勢力として“スケリッジ”が追加されます。それと、グウェントを作ったダミエンと僕がゲームに出ます。メインデザイナーのダミエンは、新しいデッキを紹介する役です。

――ラファールさんはどんな役で?

ラファール 僕は横にいるドワーフです(笑)。

――本作でゲラルトが主人公のシリーズは終わるとうかがいましたが、今後のご予定は?

アダム 現時点でゲラルトの話は終わりを迎えます。原作の世界感に合わせるために、1作目から今回の拡張パックまで制作して、やっと原作の話とゲームの話の整合性が取れた状態になったので、少し休みを取りたいですね(笑)。

――(笑)。このDLCを待っている日本のファンに向けて、ひと言お願いいたします。

アダム このゲームは、単なる拡張パックではなく、1本の独立したゲームとしてとらえてほしいですね。モブキャラクターの造形から草木のモデリングにいたるまでなど、すべての部分を作り直し、本編ではできなかったことを実現していますので、ぜひ注目してほしいですね。

ラファール メニューまわりなどの操作感も向上していますし、新しい怪物たちとの戦いは、AI(思考回路)も含めて一歩先のステージに進んだと思っています。グウェントの戦略も、奥深くなっていますので、楽しんでください。

『ウィッチャー3 ワイルドハント』追加拡張パック第2弾『血塗られた美酒』発売記念! 開発者インタビュー_03

■CD PROJEKT REDに聞く! Vol.2
『ウィッチャー3 ワイルドハント』プレイヤーからの質問

――ここからは、週刊ファミ通が行った『ウィッチャー3 ワイルドハント』生放送で募集した、視聴者からの質問を中心にうかがっていきます。

アダム&ラファール わかりました。

Q1:リスペクトされている日本のクリエイターはいらっしゃいますか?

アダム&ラファール ミヤザキサン!(※通訳ナシ)

――フロム・ソフトウェアの宮崎英高氏ですね。

ラファール そうです。『DARK SOULS III(ダークソウルIII)』を早くプレイしたいです(※インタビュー時は発売前)。それに、小島秀夫氏(コジマプロダクション代表)の動向も気になりますね。以前、カリフォルニアに行ったときにたまたま同じホテルにいらっしゃったのですが、そのときは残念ながらご挨拶ができませんでした。

アダム 作品で言えば、『ファイナルファンタジー』シリーズが好きなので、『ファイナルファンタジーXV』も楽しみにしています。それに、『ファイナルファンタジーVII リメイク』もすごく期待しています。『ファイナルファンタジーVII』がとくに好きなので、2015年の“PlayStation EXPERIENCE”で映像を見たときは、涙が出るほどうれしかったです。

ラファール 私たち以外のスタジオのメンバーも、みんな日本のゲームが大好きですし、影響を受けています。

アダム 私は、ゲーム開発の歴史において、地球上でふたつの伝説的な場所があると思っています。そのひとつが日本で、もうひとつがカリフォルニアです。スパイク・チュンソフトさんと組んで、その伝説的な場所である日本で、『ウィッチャー3 ワイルドハント』を成功させられたのは非常にうれしかったですね。この作品を発売して、日本にも『ウィッチャー』シリーズの強いコミュニティの基盤があり、ファンの方がいらっしゃることがわかりました。もはや、我々にとって日本はマーケットのひとつではなく、もっと特別な場所となりました。今後も、本作で獲得した多くの日本のファンの方々に満足していだだけるように、取り組んでいきたいと思っています。

Q2:『ウィッチャー3 ワイルドハント』をプレイしていて、どこか日本的な印象を受けるという意見が多かったのですが、日本を意識して制作された部分はあるのですか?

ラファール ウィッチャーというキャラクターは、各地を放浪し剣を使って戦い、自分自身の強い信念やモラルを持っています。これは日本の封建時代の“浪人”に近いところがあると思っています。まずその点で、ゲラルトというキャラクターそのものが、日本の方に受け入れられやすいのだと考えています。それと同時に、本作の物語やクエストでは、人間の感情的な部分を描くことに焦点を当てています。ですから、一見複雑に見えてもけっきょくは“ゲラルトがどう感じたか”につながっていくのです。それがあらゆる国で受け入れられやすい理由だと思っています。

――ゲラルトが瞑想のときに正座をするのは、浪人というイメージからでしょうか?

アダム 実際にモチーフとしたかは定かではありませんが、この体勢で座るということは、原作には描かれていません。ゲラルトが物静かで、ひとつひとつの物を大切にするキャラクターなので、薬や剣などを前に置き、敬意を払って座るという意味を込めて、このような形に落ち着きました。

――ポーランドでもそのように座る文化はあるのですか?

ラファール いいえ、そのような習慣はありません。ゲラルトが戦っているアートのテーマにも、“敵に対する敬意”というのがありましたし、やはり日本の浪人的なところに影響を受けた部分があるのかもしれませんね。

アダム 本作のメインビジュアルの構図を決める会議でも、浪人というワードがたくさん出ていましたね。また、ゲラルトは、口数は少ないけれども態度を明確に示し、かつ複雑な感情を持っている。このようなキャラクターは、『座頭市』などのように日本の映画やアニメにも見られます。これも日本的に感じる部分なのではないでしょうか。

ラファール とくに海外のゲームの主人公は、多彩なスキルや戦いかたができるものが多いのですが、ゲラルトの場合は、2本の剣と限られた魔法や道具しか使えません。個人的には、限られた中で頭を使ってそれらを使い分けて戦うというスタイルも、日本的なものだと考えますね。

――ゲラルトが巻き込まれ体質で、口では何だかんだ言いながらも他人の面倒を見る。これも日本人に親しみやすいところですよね。

アダム ゲラルトは、基本的に不幸なことが起こっていると助けようとするキャラクターだと考えています。そこも日本の方に近い部分だと思います。もちろんプレイヤーによっては、“助けない”という選択もできますが(笑)。

Q3:ゲーム中で、おふたりが好きな女性キャラクターは?

ラファール キャラクターだけを見るならシリですが、ゲラルトとの関係性を考えるとイェネファーになりますね。

アダム 私はシリです。シリは設定なども含めて、ほかのどのキャラクターよりもよく作られているキャラクターだと思っています。イェネファーは強く、トリスは感情的な性格でわかりやすいキャラクターです。しかし、シリはゲラルトを友人として扱うと同時に、父親としても扱うという、非常に複雑な部分があります。ゲームの中で描くのが難しかったキャラクターということもあって、とくに思い入れが深いですね。選択次第で、イェネファーやトリスを選ぶ、もしくは両方選ばないこともできますが、シリはつねにゲラルトの中心にいます。そういった意味でも特別な存在と言えるのではないでしょうか。

Q4:街にいる人など、主要キャラクター以外も特徴的ですよね。とくに男性ですが、ヒゲやタトゥーのバリエーションがすごいです。ここまでこだわったのはどうしてですか?

アダム 1作目、2作目に対する皆さんからの、キャラクターに関する意見をフィードバックした結果です。新しいDLC『血塗られた美酒』には、ワインをたしなむ魅力的なキャラクターがたくさん出てきますよ。

Q5:最後になりますが、ノヴィグラドの防具店に入るたび、店主が「最高級の剣だ!」と言ってくるのは、何か理由があるのでしょうか?

アダム あれはミスです(笑)。メインライターがポーランド語でセリフを書いたところから間違っていたのですが、英訳したときに翻訳がさらに味付けをして、現在の「最高級の剣だ!」というようなセリフになったらしいです。その味付けにどういった真意があるのかはわかりませんが、結論から言えば、最初から間違っていたということです。