当時のキケンなエピソードも飛び出す!?

 以前お伝えした通り、アークシステムワークスは2015年6月12日、ミリオンが所持する『くにおくん』や『ダブルドラゴン』といった元テクノスジャパン関連タイトル事業にまつわる無体財産権を、2015年6月1日付けで譲り受けたことを明らかにした。

 ファミ通.comではこの発表を受けてアークシステムワークス社長の木戸岡氏と、瀧氏を始めとした元テクノスジャパンスタッフの座談会を実施。権利譲受にいたった理由から当時の貴重かつキケン(?)なエピソードまで、少々突っ込んだ内容をうかがった。アークシステムワークスと元テクノスジャパンの良好な関係を感じとってもらえれば幸いだ。ちなみに、瀧氏の言動はなかなか激しいので驚く人もいるかもしれない。しかし、瀧氏は裏表がなく筋の通らないことが嫌いな性格の持ち主で、誰に対してもこういったスタイルを貫いているという。まさにゲームの主人公くにおくんと同じ正義の不良といった言葉のふさわしい人物である点をふまえて読んでいただけると幸いだ。

■座談会参加者
・木戸岡稔氏(アークシステムワークス代表取締役社長)(文中は木戸岡)
・瀧邦夫氏(元テクノスジャパン社長)(文中は瀧)
・半谷孝志氏(元テクノスジャパン常務取締役営業部長)(文中は半谷)
・岸本良久氏(元テクノスジャパン企画&広報室長)(文中は岸本)

アークシステムワークス×元テクノスジャパンスタッフ座談会! 『くにおくん』当時の開発裏話からちょっとキケン(?)なエピソードまで_02

――本日は……

 (言葉をさえぎるように)これは何? 何の企画なの? ファミ通? 

――はい。今回はファミ通.comの企画です。よろしくお願いします。

 俺たちが潰れたのにファミ通は潰れてないのか。まったく。

――す、すみません(噂通りのフリーダムな方だ……)。今回はアークシステムワークスさんが元テクノスジャパンさんのライセンスを譲受したことを受けて、その経緯や『くにおくん』開発当時の裏話などをお聞かせいただければと思いまして。

 俺は去年ガンになって闘病生活をしててな。考えたんだよ。もう俺や半谷は老人だから、つぎの世代に任せなきゃいけないってな。だから半谷に好きにしろって言ったんだよ。

――そこでなぜアークさんに譲受しようということになったのでしょうか?

半谷 アークさんとはニンテンドーDSの『くにおくん』のときからのお付き合いで、もう10年以上いっしょにやってるんですよ。それでアークさんは2Dにこだわりを持ってやっているし、アーケードにも力を入れている。それにファンに対してものすごく一生懸命やってくれて、いちばん『くにおくん』を大事にしてくれた。それがいちばんの理由ですよ。

木戸岡 ありがとうございます。

 まあでも(木戸岡)社長。好きに使ってくれていいけど、当たるかどうかは保証しないよ。あと、ライセンス料は10000株な。

木戸岡 わかりました(笑)。10000株わたせるようにがんばります。

 ファミ通.comさんよ。俺はメディアはあんまり好きじゃねーんだけど、ちゃんと書いておいてくれよ。

半谷 瀧さん。あんまり若い人に言い過ぎないでやってよ。(ファミ通.comの)彼は、大の『くにおくん』ファンだっていうんだから。

 そんなこたー顔見ればわかるよ。だから言っちゃってんの。お兄ちゃんは顔がよくてよかったよ。ちゃんと激しく書いてくれよな。

――は、はい(汗)。

半谷 お兄ちゃん、すまないな。瀧さんはこういう人で悪気はないんだよ。

 おもしろい話があってな、当時ある会社にライセンスしたとき、1000株しかくれなかったんだよ。だから「10000株じゃなきゃそんなもんいらねーよ」って断ったことがあるんだ。そうしたら、最初は1株3000円くらいだったのが、一挙に6000円に上がっちゃったんだよ(笑)。

木戸岡 生々しい(笑)。

半谷 瀧さんは怖いものが何もないからなんでもしゃべっちゃうな(笑)。

――すごいエピソードですね(笑)。話を戻しますけど、アークさんとの関係は10年以上前からだったんですね。

半谷 思い返すと、昔テクノスジャパンがセガにライセンスした、セガ・マークIIIの『ダブルドラゴン』(1988年発売)を開発したのが木戸岡さんなんですよ。

木戸岡 ははは(笑)。僕が独立してアークシステムワークスを作って、最初にセガさんから仕事をもらったのが、セガ・マークIIIの『ダブルドラゴン』だったんですよ。メチャメチャ評判悪かったから、テクノスジャパン的にはあまりいい思い出じゃないかもしれませんが(笑)。

半谷 あのころはうちもヤバいときだったから、とにかく許可しないとダメだったんですよ(笑)。まあでも木戸岡さんとは縁があったんだと思いますよ。

――では、元テクノスジャパンのスタッフとして、アークさんにはどのようなことを望みますか?

 社長はマジメそうだから、だまされるなって言いたいね。俺は昔、ひどいチンピラ集団に騙されたことがあるんだよ。いいゲーム作るからって、企画屋とプログラマーとデザイナーと、5~6人くらいでうちに来たんだな。「じゃあ雇ってやるよ」って言ったら前の会社に借金があるって言いやがるんだ。それで借金を肩代わりしてやったら、いきなり全員胃潰瘍になったって言って会社に来なくなってな。「おい! コラー!」ってそいつらが住んでるマンションに行ったら、みんな夜逃げしちまってたんだよ。まったく。

木戸岡 はっはっは(笑)。

 社長。笑っているけど、本当に気をつけないとダメだよ。世の中にはそういうチンピラがいるんだから。

木戸岡 はい。気をつけます。

――なかなか過激なエピソードですね(笑)。ちなみに。当時開発を担当していた岸本さんはアークさんに対しての要望はありますか?

岸本 そうですね。『くにおくん』シリーズはリメイクが多いので、誰もが興奮するような完全新作を出してほしいですね。当時のテクノスジャパンは、世界初、オンリーワンのものを作るというのが第一にあったんですよ。ケンカもの、ドッジボールと、当時としては斬新だったんです。いまでは当たり前になったアイテム課金も『ダブルドラゴン3』のときにすでにやっていましたし、当時のテクノスジャパンにはチャレンジ精神がありました。だからアークさんにはそういった精神を受け継いだものを作ってほしいと思います。

 うちはな、どんどん新しいことをやっていたんだよ。フレックスタイム制ってのがあんだろ。うちはあれをいち早く導入していたんだよ。何時に会社に来ようがいい。進行さえ守れば何してたっていいよってな。

岸本 瀧さんはほとんど会社に来ていませんでしたからね。

 バカ野郎! ちゃんと来ていただろ。

半谷 夜になってから来ていたんですよ。それで会社に来たと思ったら、若いのを連れてすぐに歌舞伎町にくり出して朝まで飲んで……それでまたつぎの日の夜に来てとね。

――すごい。さすがバブルの時代ですね(笑)。

半谷 社員200人くらいで、夜から朝まで歌舞伎町の飲み屋を貸し切ったこともあるよ。

――いくらかかるんですかそれ(笑)。

 昔はね。課長以上のヤツにカードを持たせていたんだよ。

木戸岡 クレジットカードですか?

 そうだよ。自由に使えるクレジットカードを渡していたんだ。当時会社が歌舞伎町にあったから、みんな歌舞伎町の飲み屋に行っていたよ。

木戸岡 すごい(笑)。それでもやることをやれば大丈夫な会社だったんですね。

 そうだよ。学歴なんか関係なく、成果を出せば報酬を出していたんだよ。成果さえ出せば会社に来なくたっていい。

木戸岡 コアタイムのないフレックスタイム制ですね(笑)。それじゃあ夜中に来ても大丈夫だったんですか?

半谷 何時に来てもよかったんですよ。会議がなかったから。

 会議なんて無駄なもんはありゃあしないよ。

木戸岡 (笑)。

――会議がなかったら、企画はどういったところから出てくるんですか?

 そりゃあ突然、俺から「こういうものをやってみろ」と言うときもあれば、岸本なんかが「これをやりたい」と言ってくるだけだよ。たくさん人が集まったら意見なんかまとまりゃしないよ。そんなんで1時間も2時間も会議したって無駄だよ。バカはそれで仕事した気になってるんだから。ファミ通にもそういうやついるだろ。

――い、いるのかな(笑)。

 会議で何を話し合うかを会議してたりよ。決定権のないやつが話し合ったって意味なんかありゃしないよ。

半谷 確かにゲームに関して言えば、多数決でいいものは作れないと思いますよ。

 『くにおくんの熱血ドッジボール』ってあるだろ。あれは俺がドッジボールはどうだって課長連中に聞いたんだよ。そうしたらみんな「これはマイナー過ぎますよ」って言ってきたからな。だから多数決なんてものは意味ないんだ。まあでも大した企画書じゃなかったことも確かだけどよ。それを岸本が肉付けして企画を練り上げたんだよ。

岸本 当時は何をやれば売れるかが明確だった時代ですよ。

 お前、じゃあハリウッドでやった映画は売れたのかよ。

岸本 いや、映画は(笑)。

 だから1個当てたくらいで天狗になっちゃダメなんだよ。ゲームの開発はひとりじゃできないんだから、自分が当てたみたいなこと言うんじゃないってんだ。企画立てるやつがいて、プログラマーがいて、イラストレーターがいて、それに宣伝する営業や広報も必要だろ? いらないやつなんていやしないんだよ。誰が欠けたってダメなんだから。

半谷 そうですね。ひとりではできませんから、開発者はみんなで作っているということを忘れちゃダメですよ。

木戸岡 でも、やっぱり誰か核になる人間がいないとうまくいかないですよね?

 確かに核となる人物は必要だよ。うちでは岸本だったんだけど、そういう奴が天狗になっちゃダメなんだよ。細かい部分を詰めていく面倒な仕事がいちばん大切なんだから。岸本、お前にはそういうことはできないだろ? お前の大まかに練った構想を、しっかりつじつまが合うようにしてくれるサポーターがいただろ? そういう奴を忘れちゃダメだよ。

木戸岡 いまでもそうですよね。成功する人にはしっかりしたサポーターがいますから。

 でも最終的に成功するのは、社長みたいなマジメな人だよ。

木戸岡 マジメです(笑)。ありがとうございます。

アークシステムワークス×元テクノスジャパンスタッフ座談会! 『くにおくん』当時の開発裏話からちょっとキケン(?)なエピソードまで_01

――そういえば岸本さんは、ゲームのくにおくんみたいにヤンチャしていたと聞いたのですが、本当ですか?

岸本 そうですね。ケンカばかりしていました。

 岸本は元暴走族なんだよ。ゲームの開発に高学歴なんていらないの。中卒だって、暴走族だっていいの。当時はそういういろいろな遊びを経験してる奴じゃないと、いいアイデアを出してこなかったんだよ。岸本が元暴走族だったから『くにおくん』みたいなゲームの企画ができたんだよ。なあ岸本。

岸本 ありがとうございます。

――『くにおくん』は、岸本さんが企画をして、当時の社長である瀧さんの名前を主人公につけたと?

 岸本は暴走族上がりだから、「世の中の悪いヤツはみんな殴り倒しちまえ」という企画を持ってきたんだ。それが最初の『熱血硬派くにおくん』だよ。それで俺の名前を入れたいって言ってきたんだな。

――社長の名前を主人公やタイトルに使うというのは、なかなかないですよね(笑)。

岸本 当時は社運を賭けたタイトルでしたからね(笑)。

――期間はどのくらい……?

岸本 最初にアーケードで出した『熱血硬派くにおくん』は短かったので4ヵ月。長いもので1年半くらいでしたね。当時は5~6人で作っていました。

――『くにおくん』シリーズは、キャラクターの名前にスタッフの名前が使われていますよね?

岸本 そうですね。ドッジボールやサッカー部の部員はみんな当時のスタッフの名前なんですよ。

 それだけじゃ足りなくて、俺の女の名前を入れたんだよ。だいたい歌舞伎町の飲み屋の女だ。

木戸岡 そうなんですか(笑)。

岸本 ボイスもほとんどスタッフのものでしたね。

 『熱血硬派くにおくん』に出てくるみすずの声は、俺の女の声だよ。

木戸岡 そこでも使っているんですか(笑)。

――『くにおくん』はスポーツものも結構ありますが、実際にそのスポーツに詳しい人がスタッフにいたのでしょうか?

岸本 そんなことはないですよ。でも、実際にそのスポーツをスタッフみんなでやったりしましたね。ドッジボールだって言えば、新宿公園に行ってやりましたし、つぎはテニスだって言えば、みんなでテニスをやりに行ったもんですよ。

――それは楽しそうな現場ですね(笑)。『くにおくん』シリーズは岸本さんの企画からスタートしたということですが、当時のテクノスジャパンのもうひとつの柱である『ダブルドラゴン』シリーズは何かモチーフがあったんですか?

岸本 あれはブルース・リーがモデルになっているんですよ。

 当時、うちの若いヤツでブルース・リーのことが好きなやつがいたんだよな。

岸本 ブルース・リーからジャッキーチェンの酔拳の動きまでできる男でした。気に入って入社させたんです。

半谷 ひと昔前に、某3D対戦格闘ゲームのモーションアクター経験者のスタッフがいたんですよ。

――へえー! その人が『ダブルドラゴン』をやりたいと?

岸本 キャラクターはブルース・リーで、世界観は『マッドマックス』をモチーフにして。

――そうなんですね。『ダブルドラゴン』は、アーケード版とファミコン版で別ものになっていましたが、それはやはり容量の問題だったのしょうか?

岸本 そうですね。どうしても描画がきびしかったというのもあるんですが、アーケードとファミコンは別物だと思って作りました。それで、経験値の要素を入れたり、ステージを変えてみたりと。

――やっぱりそうだったんですね。ほかに開発のおもしろいエピソードはありますか?

 開発とは違うけど、昔はロケテストのインカムの結果によって基板の受注がぜんぜん違ったんだよ。だから息子の友人を集めて、そいつらにいっぱい遊んでもらったりしたもんだよ。

――それサクラじゃないですか(笑)。

半谷 そういうの木戸岡さんもやってるんだから(笑)。

木戸岡 いやいやいや、うちは決してそんなことはやっていませんから(笑)。

――今日は楽しい開発秘話から、よそで言えないようなキケンなエピソードまで話していただいてありがとうございます。では最後に『くにおくん』ファンに木戸岡さんのほうから、メッセージをお願いします。

木戸岡 ファンの方々がずっと欲しがっていたような『くにおくん』、『ダブルドラゴン』シリーズの新作をリリース(※)していきたいと思います。瀧さんたち元テクノスジャパンの方々を悔しがらせるくらいがんばります。

 がんばらなかったら、くにおくんがあの世で怒るぜ。社長! 『くにおくん』を頼んだぞ。

木戸岡 はい。10000株渡せるようにがんばります(笑)。

※すでに『くにおくん』と『ダブルドラゴン』をアーケードゲームとしてリリースすることを、こちらのインタビューで木戸岡社長が語っている。