“RPGの巨匠”が手掛ける本気のスマホ向けRPGとは!?
『ファイナルファンタジー』シリーズの生みの親として知られ、独立してミストウォーカーを設立した後も、『ブルードラゴン』や『ロストオデッセイ』、『ラストストーリー』など多数のヒット作を手掛けてきた、“RPGの巨匠”坂口博信氏。その坂口氏の最新作は、なんとスマートフォン向け完全新作RPG『テラバトル』だった! 坂口氏がスマートフォン向けRPGを開発するに至った経緯から、本作の内容、そして今後の野望まで、インタビューで詳しく語ってもらった。
(聞き手:週刊ファミ通編集長 林克彦)
※本記事は、週刊ファミ通2014年7月17日号(7月3日発売)に掲載された記事に加筆したものです。
坂口博信氏
Hironobu Sakaguchi
タイトルは『テラバトル』。新作RPG、ようやくお披露目です
――ご無沙汰しておりました。ファミ通にご登場いただくのも久しぶりですね。
坂口博信氏(以下、坂口) そうですね、『ラストストーリー』以来ですか。
――今回は、何やらジャパンエキスポで何らかの発表をされるということを聞きつけて、駆け付けました。いったい何を……?
坂口 じつはいま、スマートフォン向けにRPGを作っています。最初は、短い時間でサクッと作ろうと考えていたのですが、RPGということでデータ量が多く、意外と時間がかかってしまって。1年くらいかかってしまいましたが、ようやく完成間近となってきたので、お披露目することにしました。
――スマホですか!?
坂口 はい。iOSとAndroid向けを同時に、9月リリースを目標に進めています。
――ジャパンエキスポでお披露目することを決められたのは、なぜなのでしょうか?
坂口 アメリカ、ヨーロッパでもある程度告知をしたいと考えていたのですが、元スクウェアUSAで働いていて、現在もアメリカで仕事をしている友人が、手伝ってくれるという話になったんです。さらにその流れから、フランスでもビジネスをしているゲーム会社の社長さんとも改めてつながりができたんですね。彼は、私が以前GDC(※)でホール・オブ・フェイム(生涯功労者賞)を受賞した際に、一票投じてくれた人だったらしくて、そのお話でも盛り上がって、「ぜひヨーロッパでもお願いします」と言ってもらえたんです。そしてちょうど7月上旬にジャパンエキスポがあるので、それじゃあそこで、となりました。
※ GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)……毎年アメリカで開催される、ゲームクリエイターを対象とした世界最大規模のセッション。
――なるほど。人のつながりと、時期的なタイミングがよかったから、というわけですね。
坂口 9月リリース予定ですから、まだ少し早いかとも思ったのですが、「こういうものを作っていますよ」という最初のアナウンスとしてはいいのかな、と。あとは、私のヨーロッパ好きもあって、そろそろヨーロッパに行きたいな、と(笑)。
――(笑)。そう言えば、ジャパンエキスポには何度も参加されていますね。
坂口 けっこう行っていますね(笑)。『ブルードラゴン』や『ロストオデッセイ』でも行きましたし。『ラストストーリー』のときは、フランスの量販店でイベントやったりしました。
肩書は“プロデューサー”でも担当範囲は「全部です(笑)」
――作品についてお聞きする前に、まず坂口さんのこの作品への関わりかたといいますか、担当されている部分を教えてください。
坂口 私がプロデューサーで、プログラマーの大野がディレクター、という形にはなっていますが、開発チームは少人数ですから。担当範囲は、もう、全部ですよね(笑)。
――では企画、シナリオも坂口さんが?
坂口 シナリオは僕が書いて、最終的な文章は、『ラストストーリー』でもいっしょに組んだ波多野君がやってくれています。私が書くのは、プロットのもうちょっと進んだところくらいまでですね。
――開発チーム全体ではどれくらいの規模なのですか?
坂口 どこまで入れるかによりますが、コアスタッフは6人ですかね。ほかに、グラフィックでモンスター関連をやっているスタッフが8人くらい、背景のほうでもふたりいます。さらに音楽が、効果音もあわせてふたり……と入れていくと、けっきょくそれなりの数ではありますね。
――でもたしかに、近年のいわゆる“大作”と比較すると、小規模ですね。
坂口 コアスタッフが私を入れて7人というのは、『FF1』のときと似ていて、それが楽しいですね。あのときは、4人で作っていたところに、ナーシャ・ジェベリが来て5人。後半でもう少し増えましたが、それでも最後の最後で12人くらいでした。これくらいの規模だと、意思疎通が早くて気持ちいいですね。……喧嘩をするとたいへんですが。
――ということは、よく喧嘩をなさっているわけですね(笑)。
坂口 昨日の夜も言い合いが怒鳴りあいになって、レストランの人に怒られました(笑)。「そもそも坂口さんのアイデアがよくないんじゃないの?」、「はぁ? 操作まわりが悪いからだろ!」なんて、よくやっています(笑)。
無課金でもクリアーできるF2P 運営でも"お祭り"を起こしたい
――まず改めてお聞きしますが、RPGをガチで作ってるということでよろしいですか?
坂口 はい、その通りです。
――形式としては、いま主流のフリー・トゥ・プレイ(F2P)ですか?
坂口 F2Pですね。ただ、無課金でもきちんと遊べるようにしたい、という部分にはとても気を使っています。シナリオ上のエンディングがあるのですが、そこまでは無課金で行き着けるように作っています。でもなるべく、お布施してくれるとありがたいな、とはお願いしておきますが(笑)。
――(笑)。それにしても、スマートフォン向けというところで驚きました。この企画はどんな経緯からスタートしたのでしょうか?
坂口 いままでミストウォーカーは、ハードウェアメーカーとタッグを組む形での大規模開発を続けてきましたが、ここにきて市場も変化して、大きな物作りが難しくなっている状況です。でもミストウォーカーにも優秀なスタッフがいるわけですから、完全に手を休めて遊んでいるのはよくないし、我々のサイズにあった物作りをしようと。そこでまず、『パーティーウェーブ』というスマートフォン用ゲームを作ったんです。
※『パーティーウェーブ』については→公式サイト
――サーフィンを題材にした、坂口さんならではのユニークなゲームですよね。
坂口 でもこれが、正直に言ってぜんぜん売れていないんです(苦笑)。自分としても初めてのスマートフォン用タイトルということもあって、売れるものと売れないもので、雲泥の差がある世界なのだと勉強しました。また、“アプリの中でアイコンをひとつ変えただけでこれだけの効果がある”といった数値測定によるマーケティング手法のことも初めて知って、すごく新鮮に感じたんですよ。それで、「これはもう一度、きちんとチャンレンジしたい」という気持ちが大きくなったんです。
――なるほど。一度作ってみたからこそ、よりやりがいを強く感じられたんですね。
坂口 ええ。それと、タイミングよく、いい人材が自然と集まってきていたのも大きかったです。
――その強力なスタッフたちと、スゴイRPGを作ってやろう、と?
坂口 いえ、それがかなり錯綜しました。最初はバレエのゲームを作っていたんですよ。
――バレエ!?
坂口 そう、バレーボールじゃなく、踊るバレエ(笑)。それで、スタッフみんなでパリのオペラ座に行ってバレエを研究したりしたんです(笑)。
――それはどんなゲームだったのですか(笑)?
坂口 ダンサーの子が、ステージを荒らすモンスターと戦いながら踊る、ちょっと音ゲーみたいなゲームでしたね。ほかにも、紙芝居のような二次元の影絵風世界で、本と戦うゲームとか、スーパーファミコンのころの『FF』のようなバトルで、召喚をメインに戦うゲームとかも考えたりしました。そんな試行錯誤をしていたころに、『パズル&ドラゴンズ』プロデューサーの山本さん(ガンホー・オンライン・エンターテイメントの山本大介氏)と飲む機会があって。スマートフォン向けゲームならではの、気を付けなければいけないポイントなどを聞いて、刺激を受けたりもしましたね。そんなこんなで紆余曲折しながら、いまの形になっていきました。
――では最初からガチのRPGを作ろうとしてスタートしたわけではなかったのですね。
坂口 徐々に熱が入ってきた感じですかね。最初はもっと気軽だったんです。ノリとしてはパーティーゲームの延長線上という感じで。それが、企画を進めていくうちに、いろいろな出会いや、独特のマーケティング手法など、つぎつぎと刺激がきて。「スマホでRPGを作るのっておもしろいし、みんなで本気でやってみようよ」と。途中から路線変更した形です。
――踏み込めば踏み込むほど、スマホ向けゲームのやり甲斐が見えてきたと。
坂口 そうですね。ほかのゲームを見ても、2、3年前は、言葉は悪いですが、原始的でいまひとつなゲームが多いイメージがありましたが、それこそ『パズドラ』などは、きっちりRPGですし、属性があって、チームも敵に応じてきちんと組み分けないといけなかったり。ある意味、そこらのRPGよりもきちんとデータ構造が作り込んでありますよね。
――そのうえ運営もありますからね。
坂口 そこですよね。リリース後にそうやって変化していくこと。また、コラボという形で、ゲーム内にほかの要素を取り込んだりしながら、お祭り騒ぎになっているのはおもしろいですよね。このお祭り騒ぎを起こしてみたいな、と。
――ユーザー巻き込んで長く育てるという点では、『FFXI』もそうでしたね。
坂口 ええ。でも『FFXI』だと、3Dできちんと作り込んだ世界なので、あまり異物は入れられないんですよ。でもスマホ向けゲームの場合、いろいろな部分での手軽さもあって、気軽に、コラボができますよね。。異物を取り込んでも、そんなに世界観が壊れない。
――最近のスマホゲームでは、テイストが全然違うコラボとか、普通にありますよね。
坂口 たくましいお祭りなんですよね。いろいろな出店が入って来ても、「うちはおしゃれなお祭りだから、イカ焼き屋はダメだよ」みたいなことがない(笑)。
ファンタジーワールドから宇宙空間まで!
――さて、今回はどこまでお話しいただけるのでしょう?
坂口 今回お見せしたのは、ロゴと、藤坂が描いたキャラクターイラストを、集めて1枚のイラストにしたものです。
――タイトルは『テラバトル』で決定ですか?
坂口 はい。このゲームは、最初はいわゆるファンタジーワールドで始まるのですが、後半では、かなりSF色が入ってきて、宇宙空間で戦うようなところまでいってしまいます。“テラ”というワードは、そんなシナリオの流れを汲んでいます。あとは、ゲーム内の魔法の序列として“メガ”、“ギガ”、“テラ”を使っているんです。テラがいちばん強い魔法で、“テラフレア”だったり。そういった意味も含めて、“テラ”と名付けています。
――イラストのほうには、かなりの人数が描かれていますね。
坂口 これでも全部ではないです。この中から、プレイヤーが好きなキャラクターを選んで、パーティーを組んで戦うことになります。ただ彼らも、絵と能力だけではつまらないので、プロフィールはきちんと設定してあって、ゲーム中で見られるようになっています。それぞれ人間関係もあるので、あるキャラクターと関係性のある別のキャラクターが仲間になると、彼らの会話や過去の話などがプロフィールに足されていったりします。ですから、仲間を増やせば増やすほど、それぞれプロフィールの厚みが増していく感じですね。直接ゲームに関係してくるわけではないのですが、彼らがキャラクターとして魅力を放ってほしいので、なるべく細かく設定を作って、それをゲーム内にも入れ込んでいます。
――グラフィックやシナリオにはかなり注力されているのですね。音楽はいかがですか?
坂口 植松さん(植松伸夫氏)がやってくれています。今回は、ジングルなども含めてフルでやってくれているので、全部で20曲くらい書いてもらっていますね。
――植松さんがスマートフォンのタイトルを手掛けるのは、かなり珍しいですよね。
坂口 何曲か提供する、ということはあったようですが、フルで担当することはめったにないようですね。
――では植松さんとしても新しい挑戦ということで、力が入っているでしょうね。
坂口 ええ。ループさせて使ったりするので、長い曲を求めていたわけではなかったのですが、あがってきた曲が、4分くらいの長さだったりするんですよ(笑)。そのぶん、データもけっこう重くなってしまうのですが、せっかくなので全部のせようと思っています。
――それは楽しみです。20曲というと、バリエーションもいろいろあるのでしょうか?
坂口 もちろん戦闘の曲がいちばん多いですが、シナリオに付随して、あるキャラクターのテーマ曲だったり、みんなが悲しみに落ちたときの曲だったりと、喜怒哀楽、感情表現をするための曲も用意してもらっています。あとは、植松さんはあまり使いたがらないのは知っていたのですが、今回はボコーダー、いわゆる人工音声を使った曲も入れてみようよ、とお願いして、曲を書いてもらいました。
――植松さんは歌ものの曲にも定評がありますが、人工音声だと、また違った味わいがありそうですね。
坂口 そうですね。私が英語で歌詞を書いた曲が1曲と、もうひとつはジングル用の短い曲。短い曲に英語の歌詞は難しいので、こちらは日本語で書いています。植松さんには、「日本語でいいの? 海外じゃ通じないんじゃないの?」と反対されたのですが、「いや、それがいいんだよ」と強引に日本語で押し通しました(笑)。
――ゲームシステムなど、肝心のゲームの中身については?
坂口 それは今回はヒミツです。ただ、当初はもっと軽めのゲームを作るつもりだったの
ですが、『FF』に携わってきたようなスタッフが多く集まっているのと、自分自身、軽いものでは許せないという習性もあって、どうしても止められなくて、ついつい作り込んでしまいました(笑)。そのぶん、遊びごたえがあるものになりましたし、ファミ通さんでご紹介するのに恥ずかしくないものになったと思っていますよ。
お祭りを起こす“仕掛け”でいずれはコンシューマ版も……!?
――さきほど“お祭りを起こしたい”といったことを仰っていましたが、今後は具体的にはどんな動きがあるのでしょうか?
坂口 まだ詳細は言えませんが、いろいろ仕掛けを考えています。ひとつには、いままでゲーム作りで関わってくれた人たちに、片っ端から声をかけているのですが、みんなけっこう軽くて、「いいよ、やろうか」というノリで、けっこう集まってきているんですよ。
――おお。では、ゲームファンにはおなじみの作家さんがコラボで参加したり……?
坂口 そうですね。スマホの特性でもあると思うのですが、お祭りで、ごった煮な感じ。ある程度テイストが違う方が入っても成立するし、そのほうがもしろい世界になると思うんですよ。『テラバトル』の、藤坂の絵柄なり背景がなりに合わせてもらうのではなく、その作家さんならではの味、個性を出してもらったらいいかなと。
――それは楽しみですね。そして、どうしても僕たちが気になるところとして、家庭用ゲーム機での展開はないのでしょうか?
坂口 じつは、いまお話しした、いろいろなクリエイターさんに集まってもらうための、ある“仕組み”を用意しているのですが、その延長線上で、スマホの『テラバトル』を出発点にして、最終的に家庭用版に行き着けたらいいな……と思っています。
――“仕組み”ですか。謎めいていますね。
坂口 9月リリースを目標に進めているので、開発のスケジュールとしては、7月末にはフィックスしようと考えています。ですので、その直後くらいのタイミングで、ゲーム内容も含めて、詳しくお話できればと思っています。
――久しぶりの坂口さんの新作RPG、しかもスマホで本気で開発ということで、とても楽しみです。また取材におうかがいします!
【試行錯誤中に生まれた試作タイトル】
インタビュー中でも語られている通り、当初は『パーティーウェーブ』の延長として、軽いノリで始まったという、坂口氏のスマホ向けゲームプロジェクト。その初期のころには、たくさんの試作タイトルが生まれては消えていったのだそうだ。ここでは、『テラバトル』の踏み台となって消えていった(?)、ボツ企画の貴重なイラスト、制作中画面などを公開!
【坂口氏とともに戦うミストウォーカーの精鋭!】
インタビュー中でも言及された、坂口氏が信頼を寄せるミストウォーカーの精鋭たち。ここで、坂口氏みずからのコメントとともに紹介しよう。
【写真前列】西村氏
大野浩司氏(おおの こうじ/ディレクター)
スクウェア・エニックス在籍時に『FFXI』などのプログラマーとして、エンジンの開発に携わる。今回ひとりですべてのプログラムを担当。超人である。
藤坂公彦氏(ふじさか きみひこ/キャラクターデザイン)
代表作『ドラッグ オン ドラグーン』『ラストストーリー』など。今回は、無茶な数のキャラクターイラストを担当。ハイセンス男。
西村有紀氏(にしむら ゆき/ゲームデザイン)
スクウェア時代、"エクセルの魔術師"として活躍してもらった。非常に緻密で大量のRPGデータを構築。がんばりやさんである。
葉山賢英氏(はやま けんえい/グラフィクスデザイン)
ソニー・プレイステーションキャンプにて活躍。今作では、UI、エフェクトなどゲーム全般にわたりハイセンスにまとめてもらった。