フランチャイズタイトルを開発するために大切なこととは?

 2014年3月17日~21日(現地時間)、サンフランシスコ・モスコーニセンターにて、ゲームクリエイターを対象とした世界最大規模のセッション、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2014が開催。
 ここでは、開催3日目の2014年3月19日に実施された講演“How to Turn a New Leaf at the Animal Crossing”をリポートしよう。
 本講演は、『とびだせ どうぶつの森』のプロデューサー江口勝也氏、ディレクター京極あや氏が、本作の開発を通じて直面した課題や、その解決策などを示しつつ、フランチャイズ(シリーズ)タイトルを開発するうえで大切なことを解説していく、というものだ。

 GDC2006で『おいでよ どうぶつの森』の講演を行い、大好評を博した江口氏だが、今回は冒頭と最後のまとめ役に。講演の主体はディレクターの京極氏が務める構成で、開発現場の興味深いお話が多数披露された。

『とびだせ どうぶつの森』は大人気シリーズの宿命――“飽き”との戦いをいかに制したのか?【GDC 2014】_01
『とびだせ どうぶつの森』は大人気シリーズの宿命――“飽き”との戦いをいかに制したのか?【GDC 2014】_02
◆江口勝也氏
◆京極あや氏

大ヒットした『街へいこうよ どうぶつの森』、しかし課題が……

 まずは、Wiiで発売された『街へいこうよ どうぶつの森』のお話から始まった。本作は、日本、北米、欧州での同時発売を目指して開発されたタイトルだが、それはとても難しいチャレンジだったそうだ。というのも、そもそも『どうぶつの森』はテキスト量が多いタイトル。単に翻訳するだけでもたいへんだが、さらにイベントやアイテム、動物の会話などを、各国で親しみをもってもらえるようにアレンジしないと、『どうぶつの森』の魅力は伝わらない。
 それでもチーム一丸となって取り組み、結果として2008年ホリデーシーズンに世界同時発売を成し遂げ、世界中の人が楽しむことができるようになった。

 しかし京極氏は、この『街へいこうよ どうぶつの森』は、必ずしもすべての人に満足してもらえたわけではなかった、と振り返る。『どうぶつの森』シリーズにはある“課題”があるのは明らかで、それが解決し切れていなかったからだと言うのだ。
 その課題とは、“飽き”の問題。

 もちろん『どうぶつの森』は、シリーズを重ねるごとにどうぶつや家具の種類が増え、さまざまな仕様変更や追加もなされてきた。しかし、“知らない村に引っ越し”、“多額のローンを背負い”、“強制的にたぬきちの店に返済を迫られる”という流れ自体は変わらない。
 京極氏は、ニンテンドーDSの『おいでよ どうぶつの森』が桁違いのヒット作となっていたこともあり、“お約束の展開”は当然引き継ぐべきと誤解していた、と語る。それは言い換えれば、『おいでよ どうぶつの森』のヒットに開発チームが縛られて、変化に臆病になっていた面があった、ということでもあるのだと言う。
 そして京極氏は、“変えなさすぎたこと”が、シリーズのファンにとっても、『どうぶつの森』の世界に閉塞感を感じさせ、長く居続けることができない世界にしてしまっている、と分析した。

 そこで、『とびだせ どうぶつの森』の開発にあたっては、原点に立ち返り、“当たり前”を見直すことを決断する。これはちょうど、近年『ゼルダの伝説』シリーズの青沼英二プロデューサーがよく口にする、“ゼルダの当たり前を見直す”と共通する考えかたでもある。多くの人気フランチャイズを抱える任天堂の開発スタッフは、こうした困難な課題とつねに戦い続けていることがよくわかる。

 では、『どうぶつの森』ではどこを見直すべきか? 表面的な部分を変えるだけでもダメだし、完全に変えてもしまってもダメ。本当に引き継ぐべきコンセプト、プレイヤーが楽しいと感じ、続けて遊ぼうと思ってくれる源――“『どうぶつの森』の核”は何かと考え続けた結果、京極氏がたどりついた結論は、“『どうぶつの森』はコミュニケーションツールである”ということだった。

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 そもそも『どうぶつの森』の数々の要素は、コミュニケーションを楽しむため、プレイヤーどうしのコミュニケーションのきっかけになるようにできている。ゲーム内での交流が現実のコミュニケーションを楽しくし、現実のコミュニケーションがゲーム内の交流を楽しくする……こうした、“コミュニケーションの連鎖”を作ることが大事な核であり、それこそが、たくさんの人が長くいつまでも遊び続けたくなる、大きなモチベーションになっている、というわけだ。

 『どうぶつの森』の村での生活は架空のものだが、誕生日プレゼントを贈り合ったり、季節のイベントを体験したり、といった楽しさは、SNSで家族や友人、同僚たちと、日々の情報を共有して楽しむのと、本質的に同じ体験だ。京極氏はさらに踏み込んで、『どうぶつの森』では、現実ではなく架空だからこそ気軽にコミュニケ―ションが楽しめる面があると指摘する。たとえば誕生日にプレゼントを贈る場合、ゲーム内ならば、そこに本物のお金が絡まないからこそ、純粋に相手のほしいものを選びやすい。また、現実にはお互いの家に招き合うほど親密になっていない相手でも、『どうぶつの森』でなら、「家に遊びに来ない?」と気軽に誘いやすいはずだ。
 ゲームという共通のテーマから、現実で声をかけあうきっかけになったり、ゲーム内の交流から、あとで、現実でお礼などのコミュニケ―ションを取るきっかけになったり。こうして、現実世界での人間関係を円滑にするような役割も果たせてしまうのは、『どうぶつの森』の希有なゲームデザインゆえだろう。

 ちなみに、それが実証されている例として、『どうぶつの森』の開発チームの現場の様子が紹介された。京極氏いわく、『どうぶつの森』開発チームでは、開発末期の切迫した状態でも、ピリピリしていない……と周囲から指摘されることが多かったのだそうだ。京極氏は、ゲームの雰囲気自体の柔らかさもあるが、『どうぶつの森』のゲームデザインが、人と人のコミュニケ―ションをテーマにしていることも関係があるのではないか、と語った。

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▲開発チーム内でも、折りにふれてさまざまなパーティを開いたり、お互いの村を訪問しあったり。開発中も、製品で遊んでいる感覚があったのだそうだ。京極氏は、会場に集まったゲーム開発者たちに対して、「チーム内がピリピリしている方は、ぜひ『どうぶつの森』で遊んでみてください」と呼びかけ、笑いを誘っていた。

『どうぶつの森』の当たり前を見直す!

 “当たり前”を見直し、 “『どうぶつの森』はコミュニケーションツールである”ことを、引き継いでいく核であると見定めた京極氏。
 そのうえで新しい『どうぶつの森』でやるべきことは、“過去にまかれた種で枯れたものを刈り取り”、“新しい種をまく”ことだと設定。
 “新しい種”として、『とびだせ どうぶつの森』で登場した要素については、多くの方が体験していることだろう。友だちとの交流をより円滑にする“ベストフレンド”や、すれちがい通信によるいろいろな人との交流、ランダムマッチングや夢見の館……などなど。とくに、IDを教えるだけで、おもしろい家や村をほかの人に紹介できる仕様は、結果としてSNSやブログなどを介して、多くの人の目に触れる機会を広げることにもつながった、と京極氏は分析する。服や看板などの“マイデザイン”をQRコードにしてシェアできるようにしたことにも、同様の効果があったことは言うまでもないだろう。

 そうした交流をさらに促進させたのが、“ニンテンドー3DS画像投稿ツール”だ。ニンテンドー3DSだけで簡単に画像を投稿可能にしたことで、『どうぶつの森』を遊んでいないときでも、誰かが描いたデザインやスクリーンショットなど、『どうぶつの森』関連のコンテンツを楽しめる機会が飛躍的に増加することとなった。これは、京極氏が意識的に取り組んだ部分なのだそうだ。

 ちなみに、『どうぶつの森』関連情報の発信元として見逃せない公式Twitterアカウント。村の住人の“しずえ”さんが発信する形で、日本では18万フォロワーを持つ人気アカウントだが、その人気は世界共通。しずえさんは、なんと7ヵ国語で世界中の人たちに情報を発信し続けているのだそうだ。

 そのほか、Wii Uの『どうぶつの森 こもれび広場』や、Miiverseを介した交流、さらには『絵心教室スケッチ』でのイラストコンテストなどなど、さまざまなサービスと連携することで、相乗的に『どうぶつの森』の話題で楽しんでもらったり、知ってもらう機会を増やす取り組みは、発売後も積極的に行われてきた。それは、新しいコミュニケーションの種を蒔き、コミュニケーションの機会と手段を増やすためにほかならない。

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“仕様”のみならず仕様の“いきさつ”を共有する

 そしてもうひとつ、シリーズの“飽き”と向き合う取り組みとして、『どうぶつの森』自体に興味を持ち、手に取ってもらえるフックを強化するための方策について。
 まず目指したのは、昔からのファンにもう一度手に取ってもらえるように、「今度の『どうぶつの森』は新しそうだ」と感じてもらうことだ。それは、『どうぶつの森』がコミュニケーションを軸とするゲームである以上、新しく遊ぶ人でも、昔から遊んで来ている人でも、『どうぶつの森』でコミュニケーションを取ってくれる人をできるだけ増やすことが大切になるからだ。

 では、そのコンセプトを、どうやって製品にしたのか? ここからは開発チームの秘密に迫るお話だ。
 『とびだせ どうぶつの森』チームでも、基本的にディレクターやプランナーが仕様をまとめる……のは、通常のゲーム開発と同様。特徴的なのは、仕様を共有すること以上に、その仕様がどんな考えから生まれたのか、そのいきさつを共有することを重視していたことだと言う。
 というのは、技術的な問題や期間的な問題があったり、そもそもイマイチなアイデアだったりで、最初に考えた仕様を実装することができなくなることも多々ある。それを変更するときにも、本来果たすべき役割が共有できていれば、効果的な仕様変更の提案がしやすいし、実装時のぶれも少なくできるからだ。

 具体的には、Wii版での反省点から導き出した課題を、従来からのスタッフも、新しくチームに入ったスタッフも、等しく共有できるように、社内Webサイトを通じて徹底。そのうえで、ディレクター、プランナーはもちろん、グラフィックデザイナーやコンポーザーまで、積極的に意見を出し合って開発を進めていったのだそうだ。
 さらに『どうぶつの森』チームの場合、「こんなアイデアはどう?」などの漠然とした提案だけでなく、服のデザインなど、ゲーム中に実装されるデータについてもアイデアを出し合っていたのだそうだ。もちろん実際に制作したりアレンジしたりするのはデザイナーの仕事だが、スケッチを気軽に提案したりできるようにしていたのだと言う。いろいろなスタッフが簡単なアイデアを出し、担当デザイナーが整える、という行程を取ることで、より幅広い趣味嗜好からのデザインが集まり、クオリティーの高いデザインデータを多数実装できた、というわけだ。とくに、後に江口氏からも語られるが、『どうぶつの森』チームは、意図的に男女、年齢もさまざまなスタッフが集う構成となっていることもあり、多彩なデザインが揃うこととなった。

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フランチャイズを成長・持続するための三箇条!

 そうしてできあがった『とびだせ どうぶつの森』が、世界中で従来作を上回る大ヒット作となっているのはご存じの通り。昔からのファンも、今作で初プレイの人も、老若男女幅広い人たちに楽しんでもらうタイトルとなったわけだが、ここで改めて京極氏は、制作開始時点でフランチャイズを俯瞰的に振り返り、“核”をベースに再構築したことが、『とびだせ どうぶつの森』というタイトルのみならず、『どうぶつの森』というフランチャイズにとっても貴重な機会だった、と語る。そしてそれは、『どうぶつの森』に限らず、あらゆるフランチャイズの開発においても同様ではないか、と京極氏。

 そしてまとめとして京極氏は、フランチャイズを成長させるために重要な3つの要素は、以下であると説明した。

・本質的な遊びの種を明確にする
・それを開発チームで共有する
・変化を恐れず、時代やハードに合わせた種をまき直す

 どんなフランチャイズにも、愛され、楽しまれている核があるはず。核を見極めて、プロジェクトで共有し、何を継承して、何を変えていくかを判断することが、フランチャイズを成長させつつ持続させていくために必要なこと。それが、『とびだせ どうぶつの森』の開発を通じて強く感じたことだ、と京極氏は語る。
 そしてそれは、既存フランチャイズだけでなく、新しいフラチャイズでも同様だろうと京極氏。今後も、これらのことを意識しながら制作を続けていく、と決意を語り、講演を終えた。

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優れたフランチャイズとプラットフォームがお互いに可能性を広げる

 京極氏の講演が終わった後、改めて江口氏が登壇。会場に集った開発者たち――フランチャイズ開発に継続的に取り組んでいる人、新しいフランチャイズを立ち上げて持続的な人気ブランドに成長させたいと考えている人――に、組織をマネジメントする立場からのアドバイスを送った。

 江口氏が挙げたひとつ目のポイントは、“組織における多様化の重要性”。『どうぶつの森』は、最初の時点から、“遊ぶ人の個性を多彩に表せるように”との狙いがあり、年齢性別を問わず、幅広い人が楽しめるように気を配って開発が進められた。そのために、開発チームも、意図的に年齢、性別のバランスがよくなるよう構成したのだそうだ。
 ゲーム開発においては、ゲームデザイン、その商品はとくにどんなユーザーに届けたいものなのかを考慮し、それに合わせて開発チームを柔軟に編成すること。それにより、さまざまなゲームを開発できるようになり、結果としてより多くの人に楽しんでもらえる機会が増える、と江口氏は説明した。

 もうひとつのポイントは、フランチャイズの成長はプラットフォームの規模を広げ、ほかのフランチャイズの可能性も広げるのだ、ということ。ニンテンドウ64で発売された『どうぶつの森』1作目は、販売本数では数十万本程度の規模だった。それがシリーズを重ねるごとに大きくなり、『とびだせ どうぶつの森』では、全世界で738万本を販売するほどのビッグタイトルとなった。これに、『ポケットモンスター X・Y』、『ルイージマンション2』などのヒットも加わり、いまやニンテンドー3DSは、世界で4274万台もの台数が普及している。
 江口氏は、強力なフランチャイズの力もあり、ニンテンドー3DSプラットフォームが巨大な市場となったことを力説しつつ、近年インディペンデントディベロッパーが増加し、大きな盛り上がりを見せていることに言及。そしてニンテンドー3DSは、据え置き機と比べると小さな労力、安い価格でもゲーム販売が可能で、ダウンロード販売でコストをかけずにリリースすることもできる、幅広いゲーム開発に対応できるプラットフォームであると説明した。またニンテンドー3DSはとくに日本で圧倒的なシェアを誇るプラットフォームだけに、ローカライズをしてリリースすれば、日本での知名度を大きく高めるにも最適であることもアピールした。

 最後に江口氏は、会場に集まった開発者たちに対して、「お互いのフランチャイズを成長させ合い、業界を盛り上げ、世界中の皆さんを笑顔にしたいと思っています。いっしょにがんばりましょう!」と呼びかけ、大きな喝采を受けながら講演を締めくくった。

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