ゲームサウンドクリエイターだからこそ作れる“愛されソング”の秘密!?

 2013年8月21日~23日、パシフィコ横浜にて開催されている、日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス“CEDEC 2013”。初日の2013年8月21日に行われたセッション、“アイドルキャラクター徹底支援! ユーザーのハートをキャッチするキャラクターソングデザイン”をリポート。

 すでにタイトルからして、興味を惹かれずにはいられないこのセッション。人気の高さ、ファン――“プロデューサー”たちの熱量の高さで知られる『アイドルマスター シンデレラガールズ』だが、その人気の中枢部分に関わる最重要な“サウンド”についての講演が聴けるとあって、会場には入りきれないほどの多くの人が詰めかけた。

 講演を行ったのは、バンダイナムコスタジオ ET開発本部 サウンド部の、大久保博氏、内田哲也氏、佐藤貴文氏。講演の主題は、『アイドルマスター シンデレラガールズ』の派生商品として発売され、大ヒットとなっているキャラクターソングCDシリーズ『THE IDOLM@ASTER CINDERELLA MASTER』が、いかにして作られているかを解説する、というもの。“キャラクターソングとはいかにあるべきか”という大前提から始まり、実際に3人が手がけた曲を例に挙げながら、曲を完成させるまでの過程で心がけた細かいポイントまで、じつに興味深い内容が語られた。

バンダイナムコスタジオ・サウンドチームが秘密を明かす! 『アイドルマスター シンデレラガールズ』のキャラソンが愛される理由とは?【CEDEC 2013】_02
◆大久保博氏(写真中央)
ET開発本部サウンド部・部長
◆内田哲也氏(写真右)
ET開発本部サウンド部 サウンド2課
サウンドデザイナー/コンポーザー
◆佐藤貴文氏(写真左)
ET開発本部サウンド部 サウンド2課
サウンドデザイナー/コンポーザー

 改めて、『THE IDOLM@ASTER CINDERELLA MASTER』について簡単に紹介しておこう。これは日本コロムビアからリリースされている、ソーシャルゲーム『アイドルマスター シンデレラガールズ』のキャラクターソングとドラマが収録されたCDシリーズだ。2012年4月に第1弾が発売されて以降、数ヵ月おきに5枚同時リリースされ、現在までに第4弾、20キャラクターのCDが発売されている。それぞれ、オリコンウィークリーランキングの上位にランクインするなどセールス的に成功を収めているうえに、ゲーム『アイドルマスター シンデレラガールズ』の人気との相乗効果で、IP全体の人気拡大に大きく貢献している。
※詳しくは→【『THE IDOLM@ASTER CINDERELLA MASTER』公式サイト

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“いい曲を作る”のは当然、求められるのは……?

 さて、サウンドクリエイターと言えば、ゲームクリエイターの中でもとくに専門色が強く、アーティスティックなイメージを抱いている人が多いのではないだろうか。しかし講演の最初に語られたのは、意外にも“キャラクタービジネスとしての意識”だ。
 一般的なキャラクタービジネスの構造と言えば、まず原作のコンテンツからキャラクターグッズ、マーチャンダイジング商品が生まれることで、主要商品以外の商品展開によって市場が拡大する。そこでIPの認知が拡大し、ビジネスが拡大していく。ときにはキャラクターがひとり歩きすることすらある……というのが基本。サウンドチームの面々は、それも意識しながら、曲作りを行っているのだという。

 必然的に、市場環境についても意識が及ぶ。ソーシャルゲームの市場という性質もあってライト層が拡大していること。また、アニソンやVocaloid人気からキャラクターソングの大衆化が進み、一般層にもニーズが生まれてきていることも意識しているという。
 そのうえで、ユーザーにいかに楽しんでもらうか? そこで重視するのは、「ゲームの世界観が増強され、よりゲームを楽しめるようになる」ものであること。それはつまり、「話題が増えてキャラクターをより愛してもらう」、「コレクションアイテムとして手にしてもらう」といったものだ。また、『アイドルマスター』は、アーケードゲームで産声を上げたときから、音楽との企画相性が非常によいIPで、初期から非常に音楽を重要視してきたIPでもある。当然ながら、「音楽商品としても高い満足度を味わってもらう」、「カラオケやライブで盛り上がり、満足してもらう」ことも外せない、となる。

 ここまでの話からも、単に“いい曲を作る”というだけではなく、IPのファンが本当に喜ぶもの、IPをより盛り上げていく力となるものを作るという、サウンドチームの意識の高さがよくわかる。

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ついに明かされる、サウンドチームの手腕!

 そしていよいよ、ここまで説明されてきた前提を踏まえて、実際の曲作りはどのように進行するのか、具体例を挙げながらの解説となった。

内田氏――『お願い!シンデレラ』の場合

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 まずは、『お願い!シンデレラ』を手がけた内田氏からだ。IPディレクターとの打ち合わせで提示されたリクエストは、“CMで流れて耳に残るキャッチーな曲”というもの。これは、『お願い!シンデレラ』が、誰か特定のキャラクターのための曲ではなく、複数のキャラクターによって歌われる『アイドルマスター シンデレラガールズ』というタイトル全体のテーマソング的な位置づけの曲になるためだ。
 「キャッチーに、ってよくリクエストされるのですが、困りますよね」と苦笑いする内田氏だが、悩んだ末に、「みんなで、ライブで盛り上がれる曲はキャッチーだろう」と考える。さらにそこから、「どうすれば盛り上がるのか? ……コールを入れやすい曲は盛り上がるだろう」(内田氏)との結論に至ったという。
(※コールとは、「ハイ! ハイ!」などの合いの手のこと。PPPHなどが有名)

 続いて、曲の実制作に。ここではまず、複数のキャラクターが歌うということを考慮し、「歌いやすいように、音域を狭く。基本的にドから上のドまで、1オクターブ内に設定しました」(内田氏)。
 そしてメロディについては、先に述べたように、“コールが入りやすいメロディ”にするため、参考用のコールを用意し、シーケンサーで合わせながら作っていったのだそうだ。

 さらに歌詞についても、ゲームの用語(キュート、クール、パッションなど)や、そのものずばり“シンデレラ”などを入れ込むなどして、世界観との一体化が図られている。こうした作詞家へのオーダーも含めて曲をプロデュースしているわけだ。

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▲シーケンサーで実演してみせてくれた内田氏。大久保氏も、思わず「いいね。これほしい!」とコメントしていた。
▲歌詞についても、ゲームの用語(キュート、クール、パッションなど)や、そのものずばり“シンデレラ”などを入れ込むなどして、世界観との一体化が図られている。こうした作詞家へのオーダーも含めて曲をプロデュースしているわけだ。

 こうしてできあがった『お願い!シンデレラ』。実際にライブでは、「ファンがコールを入れてくれるのを見て感動しました」(内田氏)とのこと。まさに、内田氏の考えた“キャッチー”が、ファンに支持された結果と言えるだろう。

佐藤氏――『あんずのうた』の場合

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 続いては、“双葉杏”の曲『あんずのうた』を手がけた佐藤氏。IPディレクターとの打ち合わせでは、まず双葉杏のキャラクターイメージ――“働きたくないアイドル”、音楽イメージ――“電波曲”、さらに“濃いキャラクター性”を表現することを確認。
 佐藤氏の場合、そこから、「せっかくゲーム屋なので、ゲームとしっかり向き合って、ゲーム屋的なアプローチをしたい」(佐藤氏)ということで、まず企画書を作ったのだそうだ。そして“真ん中に教祖様がいて、ファンが熱っぽく応援する”というキービジュアルを中心に、イメージを広げて、要素を決めていったのだという。

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 さらに、音を作る前に、曲全体の構成――“設計図”を作成。アウトラインを固めたうえで、サウンドの実制作に入ったのだそうだ。もちろん、制作を進める過程で、“設計図”に変更を加えた部分もあるそうだが、最終的に、緻密な構成に基づいた、ある意味“ネタに事欠かない”曲が完成する。

 こうしてできた『あんずのうた』。実際にライブで歌われた際には、「キーイメージのような異様な空間ができていました(笑)」(佐藤氏)と、ファンに愛される曲となったのも納得だ。

大久保氏――『アップルパイ・プリンセス』の場合

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 トリを務めたのは、“第1回シンデレラガール選抜総選挙”で第1位に輝いた“十時愛梨”の曲『アップルパイ・プリンセス』を手がけた大久保氏。IPディレクターとの打ち合わせでは、キャラクターイメージは“豊満なボディ”というそのものズバリな指定。一方音楽イメージは“元気があって明るい曲”、”突き抜け感”、“単なる「よい曲」に収まらない何か”という、かなり難しいものだったそうだ。
 キャラクターのイメージから楽曲アイデアを模索していった大久保氏は、「ユーザーが感じる“十時”の魅力を最大限に引き出し、彼女らしさと、そこから受ける“萌え”、“色気”、“かわいらしさ”を強調する曲」を制作することを目標に定める。
 必然的に、音楽のデザインも、目標に沿ったものとなる。音楽スタイルは、POPで女子力強調系のものでありながら、シリーズの名曲『キラメキラリ』のような、元気な『アイマス』曲の代表的イメージを踏襲する。そして楽曲を構成する音についても、“豊満なボディ”をイメージさせる音(「ボイ~~ン」となるティンパニなど)、“プリンセス”をイメージする音(チェンバロやグロッケンなど)といったものを想定してチョイス。

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 そして歌詞についても、大久保氏と作詞家とでイメージを共有して作り上げていったそうだ。ただしここでは、とくに“豊満なボディ”という部分が、難しくもあり、曲の個性を際立たせるポイントともなったという。というのも、『アイドルマスター』というIPの世界観において、露骨な表現は許容されるものではない。では、いかにして“豊満なボディ”を表現するか? ここで採った手法は、「ユーザーの想像力で解釈してもらう」というもの。大久保氏と作詞家とで協力して、意味深なワードを多数散りばめ、『アイドルマスター』のイメージの範囲内で、きちんとキャラクターの魅力を表現しきったのだ。

 結果として、多くのユーザーから「ポップでカワイイ曲」という評価を得るとともに、大久保氏の狙いに気づいたファンからも好意的な反応が寄せられ、「お客様に喜んでいただけたかな、と思います」(大久保氏)と、意図した成果を得ることに成功した。

キャラソンは“音楽でキャラクターを支援する”存在

 最後にまとめとして大久保氏は、キャラクターソングの役割について、「きちんと狙いを持って、音楽でキャラクターを支援することです」と語る。つまり、「キャラクターソングも、ゲーム音楽と同じで、キャラクターを支援するための演出のひとつです。アートを作っているわけではなく、立てるべきもの、演出するべきものがある。情報を集めて、企画側と伝えるべきことを確認してから作る。そうしないとキャラソンは成り立ちません」(大久保氏)というわけだ。

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 以上、『アイドルマスター』ファンならずとも、思わず唸らされる内容となった本セッション。やはり肝は、大久保氏が語った「狙いを持って、音楽でキャラクターを支援する」というところだろう。
 “いい音楽を作る”というだけでも並大抵ではないが、『アイマス』のキャラクターソングにおいては、それすらも必須要素のひとつにすぎない。そのうえでサウンドクリエイターたちに求められるのは、“ファン目線で作品世界、キャラクターの魅力を理解する感性”、“魅力を表現するためのロジックと、音楽家としての引き出し”、“IPディレクターや作詞家と確実に意思疎通をするコミュニケーション能力”などなど……。これらは、作曲家であると同時に“ゲームクリエイター”でもある、ゲームサウンドクリエイターならではの能力。そして『アイマス』のキャラクターソングは、ゲームサウンドクリエイターならではのもの作りの結晶だと言えるだろう。

 しかし返す返すも、恐るべきはバンダイナムコスタジオ・サウンドチームの底力。『アイドルマスター』がこれだけ大きなIPに成長し得たのも、サウンドチームの力あってこそ、であるのは間違いない。今回のセッションでは、曲作りの秘密が大盤振る舞い、かなり詳細に解説されたが、これも「マネできるものならやってごらん」という自負があるからかも……というのはうがちすぎですか?