アメリカ・シアトルにて、2013年5月22日(日本時間)に発表された新世代Xbox、“Xbox One”。発表会では、スペックのごく一部が公開されたが、Xbox Oneのポテンシャルはいかほどのものなのか? テクニカルジャーナリストの西川善司氏による所見をお届けしよう。

以下、西川氏の寄稿文を全文掲載する。

Xbox One発表に寄せて~リビングルームの中核的存在を狙う

Xbox Oneの発表とそのプレゼンテーション
マイクロソフトが次世代ゲーム機「Xbox One」を発表した。
「720」「Infinity(∞)」とか、噂では諸説あったが、結果的には予想外の「One」だった。
この想定外のネーミングには、「All in One System」の「One」から来ているようだ。
Xbox 360は「全方位360°のエンターテインメントをここに集約する」というコンセプトの名前だった。そして、今回のXbox Oneは、「全てのエンターテインメントをこの1台に集約させる」という意味が込められているようだ。

Xbox Oneをどう見るかーーテクニカルジャーナリスト西川善司氏が分析する新世代Xbox像_01
▲Xbox Oneの名前は「All in One System」の「One」から?

 興味深かったのは、ゲーム機の名称が明かされてからしばらくは、ゲーム以外の話でプレゼンテーションが進行したことだ。
 そして、「リビングルームにある大きなテレビをXbox Oneに接続することで全てのエンターテインメントが楽しめる」というメッセージを強調して見せた。
 マイホーム画面を音声認識で呼び出したり、映画をジェスチャー操作で再生制御して見せたり、映画の画面とWeb画面を2画面モードで表示して、それをスマートフォンで操作して見せたりする場面が続き、話題はなかなかゲームに移らない。

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▲Xbox Oneのメディア性能を紹介したYusuf Mehdi氏。(Senior Vice President of the Online Audience Business Group,Microsoft)

 登壇したマイクロソフトのYusuf Mehdi氏(Senior Vice President of the Online Audience Business Group,Microsoft)は、「テレビをXbox Oneに接続したときに、そのテレビは本当のインテリジェントTVとなる」と締めくくったが、まるでそのプレゼンテーションは家電メーカーのスマートテレビの発表会のようだった。
 Xbox Oneはゲーム機であることは間違いないが、マイクロソフトとしては、家庭のエンターテインメントの中核的存在を目指したマシンであることを特に推したいのであろう。
 現在、家電メーカーはスマートテレビ製品のラインナップ展開に力を注いでいる。ただ、家電はどうしても「良くも悪くも使い切り」の製品になりがちで、スマートテレビに分類される製品でも、初期リリース時の仕様から大きく発展しないものが多い。例えばインターネット連動機能を搭載したテレビはこれまでに多数リリースされてきたが、繰り返しのアップデートを行ってその使い勝手を改善したり、利用出来るサービスが広がっていくような展開を見せた製品はほとんどなかった。
 そこで、発想を変えて、スマートテレビの「スマート機能たる部分」を「Xbox Oneで請け負いましょう」というのがXbox Oneのリビング侵略戦略にあるのだろう。一般的なテレビメーカーが独自に「便利アプリ機能を提供します」「テレビで動くゲームを提供します」「独自のコンテンツサービスを提供します」といっても、ユーザーはなかなかついてきてくれなさそうだが「マイクロソフトがやる」というのであれば事情は違ってくる。
 ただ、テレビ放送、映像コンテンツ、音楽コンテンツといったものは、地域特性が強いコンテンツなので、画一的な仕様のサービス戦略をワールドワイドには取りにくい。成功の鍵は、どれくらいその地域に密着したコンテンツサービスが展開できるかに掛かってくる。今回のXbox One発表会で北米地域以外の言及がなかったのはそうした背景があるからだろう。

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▲「世界同時発売」という表現は避けられ、「今年の後半、世界中で発売予定」という告知が行われた。

Xbox OneはメモリパフォーマンスはESRAMで稼ぐ
 気になるハードウェアスペックについても見ていくことにしよう。
 結論から言えば、公開された情報は、ソニー・コンピュータエンタテインメントが行ったPS4の開示情報と比較するとやや限定的な印象を受ける。
 CPUは、x86系アーキテクチャを採用している事が明らかにされ、8コアを搭載すると発表された。x86系CPU×8コアという構成はPS4と同等のものとなる。メーカー名は明かされなかったが、業界関係者からの情報を総合するとAMD製のものになることが確実視されている。GPUも同様だ。

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▲Marc Whitten氏。(Chief Production Officer,interactive entertainment,Microsoft)

 メインメモリ容量は8GBと発表された。これはPS4の搭載量と同等だ。ただし、そのメモリタイプはDDR3タイプだと言われている。PS4は同じ8GB容量でもGDDR5タイプを採用する。DDR3メモリは動作クロックの2倍速でデータの伝送が行われるのに対し、GDDR5メモリはベースクロックの4倍速で実践される。
 駆動クロックが異なるため、一概には比較できないとはいえ、同一クロックで駆動したときのデータレートに2倍の差があるので、常識的に考えればメモリ帯域性能はPS4の方が高いはずだ。

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▲Xbox Oneの主要スペック。

 しかし、Xbox OneにはEmbedded SRAMが組み合わされ、この負い目を克服するとしている。
 SRAM(STATIC RAM)はCPUなどのキャッシュメモリでお馴染みの存在で、その特徴は、コアクロックと同等、あるいはそれに近い速度で動作する超高速なメモリーだ。SRAMは、ロジック規模としては大きくなるため、最新のハイエンドCPUのキャッシュメモリでも数MBないし十数MBの容量に留められている。
 Xbox Oneではその容量は明かされていないが、一部のリーク情報によれば32MBだとされる。
 ところで、先代Xbox 360では、GPU側にEDRAMと呼ばれる超高速に動作するローカルメモリが10MB搭載されていたことを覚えている人もいることだろう。Xbox 360のEDRAMはグラフィックスの描画先バッファとして利用できたわけだが、Xbox OneのESRAMはメモリの種類(とその容量)が違うが、そのコンセプトとしては似通ったものがある。GPUが利用出来るローカルメモリとして機能するのか、CPUのキャッシュメモリとして利用出来るのか、あるいはその両方なのかは不明だが、Xbox Oneのメモリシステムのキモとなる存在であることは間違いない。
 今回、Xbox Oneのコアプロセッサ(CPU+GPU)の規模は50億トランジスタと発表されたが、これは、このESRAMがかなりの割合を占めていると思われる。

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▲Xbox OneはESRAMを搭載。PS4はまだまだ高価なGDDR5を採用したのに対し、Xbox Oneはコスト的に安価なDDR3を採用する。しかし、ESRAMでそのパフォーマンスの負い目を克服する。

Xbox Oneの周辺デバイスと接続スペック
 ハードディスクは500GBを搭載。
 光ディスクドライブはBlu-rayドライブを採用。Xbox 360では、アーキテクトのジェイ・アラード氏が「データはネットワークからダウンロードすればいい。だから光ディスクなんてなんでもいいのだ」と主張したことをうけて、DVDドライブを採用した。しかし、その思惑通りには行かず、Xbox 360ライフタイム後期の現在でも、光ディスク経由でのゲーム供給は存続し、Xbox 360はそのDVDの容量の小ささに泣かされる状況にある。一部のXbox360ゲームでは「DVD●枚組」というものも出てきてしまっており、さすがにXbox Oneではこの状況下から脱したいというと言うことなのだろう。

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▲ついにXboxファミリーがBlu-rayを採用。Xbox360時代はHD DVDを光ディスクメディアに選んだこともあった。

 USBポートは最新のUSB3.0規格に対応する。
 ネットワーク機能は理論値600Mbpsの通信速度を実現する802.11nに対応。また、WiFi-Direct規格に対応し、ゲームコントローラや新Kinectセンサーとの接続に利用される。WiFi-Directの応用技術のひとつで、無線で映像伝送を行うMiracastに対応するかは不明。
 HDMI端子は出力の他、パススルー対応の入力端子も装備される。入力端子は衛星テレビチューナーやケーブルテレビチューナー、その他のビデオレコーダーなどのAV機器との接続のために利用される。Xbox Oneが、このHDMIパススルー端子に接続された家電機器のホストとなり、HDMI-CEC(Consumer Electronics Control)の仕組みを使ってそれらを制御する仕組みとなる。

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▲純正標準ゲームコントローラ。トリガボタンにフィードバック機能が搭載されたという。

進化したXbox OneのKinectセンサー
 Xbox Oneは、モーション入力システムのKinectを大前提としたプラットフォームになることから、Xbox Oneでは1台のKinectセンサーが必ず付属する。

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▲Xbox Oneに付属する新Kinectセンサー。

 このKinectセンサーは、Xbox 360に提供されたKinectセンサーとは異なる原理でモーションをセンシングする。
 Xbox 360 Kinectセンサーは、イスラエルのPrimeSenseが開発した技術がベースになっていた。これは事前に用意したドットパターンを赤外光で照射して、そのドットパターンの変形からシーンの形状を認識する方式になる。
 今回Xbox Oneに提供される新Kinectセンサーは赤外光を面照射して、その反射光が返ってくるまでの時間をCMOSベースの距離イメージセンサでTOF(Time of Flight)方式で測定する。TOFとは、照射された赤外光が反射されて照射側に戻ってくるまでの時間差でシーンの深度分布を計測する手法だ。マイクロソフトによればその測距精度は130億分の1秒だそうで、Xbox 360 Kinectよりも各段に高精度な深度値が取得できるとしている。遮蔽によるエラーを除けば原理的には、細かい指の動きまでを取得できるという。この技術はマイクロソフトが2009年に買収したイスラエルの3DV Systems社の技術を用いているものと思われる。
 Xbox 360 Kinectと同じく、この深度測定と同時に可視光映像(いわゆる普通のカメラとしての撮影映像)を取得しており、部屋の中の対象物を認識し、それが人であれば、取得した赤外光ベースの深度情報と組み合わせて、ボーン(骨格)を取得したり、あるいはボリュームデータを取得したりする。

※測距精度は正しくは130億分の1秒でした。訂正します。(2013年5月23日)

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▲ドット単位の深度情報が撮れるようになったXbox Oneの新Kinectセンサー。
▲取得精度はXbox 360用のKinectから各段に進化した。

 Xbox OneのKinectセンサーは、レンズのように見えるのが1つしかないが、この開口部で深度取得と映像の撮影の両方を行っていることになる。
 撮影および深度測定解像度は1080p/30fps。つまり、毎秒30コマで1920×1080ドット解像度のドット単位で深度値とフルカラー値の測定が行えると言うことだ。
 音声に関しては、室内の話者位置特定を行うために、マイクを並べて配置したマイクアレイ構造を採用。これはXbox 360 Kinectセンサーと同等だ。
 なお、このKinectセンサーは、Skypeによるビデオチャットの映像撮影にも利用される。

3つのOSが稼動するXbox One
 Xbox Oneでは、OS(Operating System)が3つ稼動するという。
 1つは、ゲームOSともいえるXbox OSだ。これはXbox360の時と同様にゲーム関連の機能を司るものになる。
 2つ目はWindows。明言はされなかったがWindows8世代のものが搭載されるとみて間違いない。動作対象ハードウェアが一種類であり、対応するハードウェアも限定的であるため、パソコン用のものがそのままインストールされるわけではないだろうが、ゲーム以外のソフト(ノンゲームアプリ)などが使えるプラットフォームとして利用されると見られる。
 3つ目のOSは、前出2つのOSを制御、切り換えるためのバックグラウンドOSだ。ユーザーの用途に応じてほぼ瞬間的にそれぞれのOSの動作モードに切り換えることができる。
 恐らく、最新x86-CPUの仮想モードを活用して実現した仕組みだと思われるが、こうした部分の凝った作りは、さすがはマイクロソフトといったところか。

まだ不明点も多いXbox One~さらなる詳細はE3で開示されるか
 今回のXbox One発表会では、グラフィックスプロセッサ(GPU)に関する具体的な言及はなく、FLOPS値のような演算性能値、シェーダプロセッサの個数についても公開されることはなかった。

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▲「CALL OF DUTY:GHOSTS」の紹介映像のワンシーンから。この時、テッセレーションステージの活用が行われているとの説明があった。

 しかし、発表会の後半に公開された「CALL OF DUTY:GHOSTS」のグラフィックスの解説時にテッセレーションステージの活用のことなどが触れられていたので、DirectX11.0世代ないしはDirectX11.1世代のものが採用されるとみられる。
 この辺りについては、6月にロサンゼルスで行われるE3プレスカンファレンスで語られるのかも知れない。

(トライゼット西川善司)